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ベンダーの批判は簡単だけど、その先に未来はあるの?

2022

10/13

ベンダーの批判は簡単だけど、その先に未来はあるの?

ベンダーへの不信感が高まる

「あのベンダーは本当にわかっていない」
「あれだけ説明したのに、全く違うことを書いている」
「もう限界だからベンダーにキレてもいいか?」

プロジェクトの中心メンバーが、感情を前面に出して批判しています。

正直、わからなくもないです。

ベンダーの残念なアウトプットが続いているからです。

内部定例会で、日増しにベンダーへの批判の口調を強めます。

すると、同調者も増えてきます。プロジェクト内に不安の空気が渦巻きます。

個別に、若手メンバーから相談がありました。

「このままで大丈夫なんですか?」

はい、もちろん大丈夫ではありません。

このような状況で、プロジェクト・マネージャーやPMOはどう対策を打てばよいのでしょうか?

負の連鎖は続く

いつもベンダーの批判ばかり言っている人が一人でもいると、そこから同調者が増え、全体が感化されていきます。

すると、ベンダーが信用できなくなり、次のような行動に出ます。
・完全なコントロール下に置くために厳しいルールを設ける
 (会議資料は3日前に提出等)
・成果物の上げ足を取るほど厳しくチェックする
・ベンダー内部レビューを強化させ、証拠を提出させる
・ベンダーWBSに細かく指摘を入れ、タスクを増やす
・ベンダーがサボらないよう都度報告させる

すると、ベンダー側は疲弊し、次のような行動をおこします。
・言われたことだけをやる
・積極的な提案があっても控える
・リスクや課題があっても言わない
・余計な指摘を受けないよう、表面上は進捗を良く見せる
・内部レビューの余力がなくなり、いったん出してユーザーに指摘させる
・余計な指示を受けないようコミュニケーションも最小化する

もはや、感情的な対立も増え、お互いがお互いを信頼できなくなります。

負の連鎖を断ち切れなくなってしまうのです。

批判するか引き上げるか

プロジェクトの初期は、ベンダーに対して「不安」と「期待」が入り混じっています。でも、均衡していて、バランスがとれている状態です。

ところが、ベンダーの批判ばかりしている人が現れると、その均衡は崩れていきます。ベンダーの印象が、悪い方に一気に傾いてしまうのです。

批判する人は、なぜ批判ばかりするのでしょうか?

経験上、このようなタイプに多く出逢ってきましたが、総じて次のような傾向がありました。
・能力は非常に高い
・完璧主義者
・自信家
・攻撃的/好戦的
・プライドも高い

プロジェクトの成功よりも個人のプライドを優先する感じでした。

ベンダーを誘導して、自社の理解を促せばいいのですが、自分の思い通りにいかないと我慢できません。

承認欲求が満たされていないのか、ベンダーよりも自身の方が上だと誇示したりもします。なれの果ては「ベンダーチェンジ」を主張しだします。

しかし、批判は簡単なのです。

完璧なものなど無いので、難クセをつければいくらでも可能です。

そして、ベンダーが常に謝ってくることで勘違いし、感情が高まり、ダークサイドに堕ちていきます。

そもそも、ベンダーが最初のうちは自社の理解不足なのは当たり前です。

キャッチアップするまで我慢強くフォローする。このフォローの方が大変ですが、それを放棄しているだけともいえます。

事を荒らした顛末をどう決着させるのでしょうか。

「絶対服従」させるか「ベンダーチェンジ」か。

そんな視野の狭い展開だけしか考えていないように見えます。

批判を繰り返す人へのアプローチ

ベンダー批判は、大きくなりすぎると、手の打ちようがなくなります。

批判の兆候は必ず「要件定義」のフェーズで出てきます。

この「ボヤ」の段階で「油」を注いでしまうか「鎮火」させるか。

内部定例会でPMやPMOが、批判の声をスルーしていると「油」を注ぐのと同義です。同調者が増えていくのを、指をくわえて見ているのと同じです。

批判の声が出たら、ベンダーの良いところも取り上げて、過度な批判ムードを薄めることです。

持ち上げすぎる必要はないですが、事実としてベンダーが頑張っていること、評価できることも共有して、フラットな状態にもっていくことです。

それでも、繰り返しボヤ騒ぎを起こすのであれば、個別に手を打ちます。
・ベンダーの良いところを強調し、役割分担だと認識させる
・プロジェクトオーナーに相談し、改善指導してもらう
・ベンダーと距離を取らせ、間に別の人が入る
・会議には参加させず成果物レビューなど間接的な関わりにする
・攻撃性が強く、チームワークに不向きなら、プロジェクトから外す

プロジェクトに多様性は必要です。

うまく協業できれば、それに越したことはありません。

その人がいなくなれば、大きな穴があくことも分かっています。日頃の付き合いもあるため、対応が難しいのも分かっています。

一方で、プロジェクト全体が天秤にかかっています。

特定の個人がプロジェクトを蝕んで、破滅に導く可能性があれば、早めに手を打たないといけません。

批判する人をPMやPMOがどう扱うか。

これはプロジェクトメンバーから見られています。

差配に正解はありません。

それでも、決断は必要です。

感情管理もプロジェクト管理の一部

ベンダーを批判しても、何も解決しません。

ベンダーが「良いか悪いか」は、ベンダー選定時に終わった話です。

一番信頼できるベンダーを、それなりに時間をかけて選んできたのです。

ならば、話を蒸し返すのではなく、心中覚悟でベンダーを信頼しまくる。

そのムードを作っていくのもPMやPMOの役割です。

ベンダーの実力は変わりません。

ですが、その実力を引き出すのか、フタをするのかは、自社の「選択」です。

この選択で、ベンダーのパフォーマンスは、天と地ほどの差が出てきます。

労力を搾り取ろうとすると、逆に出力は下がります。

信頼すると献身的に尽くしてくれます。

この法則をわかっていない、残念な人が多すぎます。

そして、無理やりベンダーを統制しようとダークサイドに堕ちていきます。

プロジェクトは、ただでさえ活動自体の難易度が高いのに、お互いが足を引っ張り合って、どうするのでしょうか?

一枚岩となり、信頼関係の中で進めていかないと、うまくいくはずがありません。

そのための自社の「感情管理」もプロジェクト管理の重要な一部です。

貴社のプロジェクトでは、感情管理をうまく行っていますでしょうか?

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情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。