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エクセル共存こそがパッケージ導入を成功させる秘訣

2022

11/16

進むも地獄、退くも地獄

「新システムは使い勝手が悪すぎるから、今まで通りエクセルを使いたい」

ある現場で、各部署から新システムのクレームが殺到し、本稼働のタイミングを延期せざるを得ない状況となりました。

プロジェクトメンバーは、テストにしっかりと時間をかけ、バグもすべて潰してきました。悪戦苦闘しながらも、最後の気力を振り絞って本番を迎えるところでした。

そのため、精神的なダメージは大きなものです。

このプロジェクトでは

「属人性の高いエクセルを撲滅し、システムで一元管理する」

ことを目的として、パッケージシステムの導入を進めてきました。そのため、各部署からの「エクセル継続」要望は、プロジェクトの存在自体を否定するもの。

とても呑めるものではありません。

進むも地獄、退くも地獄。しかし、立ち止まることも許されません。

このプロジェクトは、この先どう進めていけばよいのでしょうか?

エクセルの負の側面

新システムを導入する際の方針として「脱エクセル」は、どの現場でもよく使われるフレーズです。

歴史のある現場では、エクセルを駆使し、工夫を詰め込み、業務を最適化しています。

もはやエクセルがないと現場は回りません。

一方で、エクセルにはとても強烈な「負の側面」があります。
・業務とエクセルが一体化し、属人化する
・標準仕様から遠ざかる個別化
・自由にカスタマイズされ、全体統制がきかない
・データが分散し、一元管理できない
・外部流出しやすい
・全体検索に弱い
・リアルタイムに全体集計、可視化できない

これらを解決したいので「脱エクセル」は、間違いではありません。

そこで、各部署にもう一度ヒアリングをして回りました。

その結果、すべてが否定されているわけではなく、ある一部のシーンで許容できない問題がわかりました。

それが「一括入力」です。

エクセルの位置づけをずらす

例えば、1件の明細入力なら画面入力で何も問題ありません。

しかし、100明細を一括入力したい場合はどうでしょうか?

100回の画面入力は、途方に暮れます。同じ項目に同じ値を入れたくても、コピペするには画面を行ったり来たりで、しかもそれが1項目ずつだと、現実的ではありません。

エクセルで100明細を表示して、同じ値は縦にコピペして一気に入力した方が、圧倒的に速いし楽です。俯瞰して見えるため、入力ミスも発見しやすくなります。

複数項目を範囲指定でコピペできるのも、地味に便利です。

そこで着目したのが、パッケージに標準装備されている「一括インポート」機能です。エクセルで複数行を入力したデータを、そのまま取り込むことができます。

しかし、プロジェクトメンバーには抵抗がありました。

この機能を許すと、エクセルが残り続けてしまうからです。そのため、要件定義の段階で、見送りとした経緯がありました。

そこで、プロジェクトの方針を少しだけ修正します。
・エクセルの「管理」は撲滅する
・最終的には、すべてシステムにデータ登録を義務付ける
・ただし、一括インポートなど「入力ツール」としての使用は認める

つまり、エクセルは入力画面の「拡張機能」としてとらえることで、撲滅すべき対象ではなく、共存できる便利ツールになったのです。

すると、状況は一変しました。

あれだけクレームを出していた部署の反応が変わります。他の機能については、褒めてくれるようになりました。

全否定されているのではなかったのです。

一括入力だけが、ボトルネックだったのです。

プロジェクトメンバーの視界が、一気に晴れた瞬間でした。

情シスに求められる2つのスキル

プロジェクトは3か月延期し、一括インポートの機能を徹底的にテストします。その部分のマニュアルも更新し、各部署への個別説明にも回りました。

インポート用のエクセルには「入力規則」を設定し、インポート時のデータチェック機能も搭載しました。

エクセルは自由にフォーマットを変えられないよう、シートを保護したものを現場に配布します。

その後、ようやく本番運用を開始し、大きなトラブルは発生しませんでした。

むしろ現場からは高評価をいただき、経営層からはデータが可視化され褒められました。

システム導入は、新か旧かの「ゼロ・イチ」ではありません。

置き換える対象を完全に撲滅するのは、選択肢の一つにすぎないのです。

共存も一つの選択肢です。

これらの事例は、情シスに2つのスキルが求められていることを示唆しています。

1つは、「コーディネート」する力。

あらゆる選択肢から、最適な組み合わせを考えていく能力です。

2つ目は、「柔軟性」です。

要件定義で決めても、実際に運用して初めてわかる課題もあるからです。

貴社のIT部門・情報システム部門は、「コーディネート」力と「柔軟性」を発揮して、新システム導入を進めていますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。