2025
10/01

残業漬けの事業管理部門
「事業管理部門の残業を減らすためです」
情シス担当のAさんは、堂々と企画書を説明しています。
その企業では、事業管理部門のメンバーが毎晩のように深夜まで残業しており、情シスは「何とかしたい」という思いがありました。
実態を調べてみると、最大の原因は「問い合わせ対応」。
この事業は複雑で、分厚いマニュアルはあるのものの、現場では読んでくれません。結局は問い合わせが集中し、社員は連日、夜遅くまでメールと電話に追われていました。
「増員しても即戦力にならないし、問い合わせは属人化している。だからこそ、ナレッジを共有できる仕組みが必要だと考えました」
Aさんは「問い合わせ管理システム」の導入を企画し、2週間の無料トライアルを実施。実際に操作してみて「これはいける」と確信したそうです。
導入計画書もまとめ、さあいよいよ稟議だというとき。
その企画は、あっけなく潰れてしまいました。
なぜでしょうか?
判定会議の結末
システム導入の判定会議が開かれました。
Aさんからの説明後、現場からは意外にも否定的な声が多く上がります。
「我々の問い合わせ対応は、そんな単純なFAQでは片付かない」
「マニュアルに載らないグレー対応が多いし、新システムを覚える余裕はない」
「今でも手一杯なのに、これ以上の新たな管理は無理」
しばらく沈黙が続いた後、事業部門長が重い口を開きます。
「現場が歓迎していない以上、導入は承認できない」
その一言で、企画は正式にストップとなります。
Aさんは、深く落胆してしまいました。
導入が頓挫した本当の理由
この失敗要因は、大きく2つあります。
一つ目は、「現場の反対=NG」と受け取ってしまったこと。
現場効率化のためのシステムは、基本的に現場に歓迎されません。自分たちのやり方を否定される感覚や、「効率化=人員削減」という恐れを抱くからです。
つまり、現場に導入判断を委ねた時点で、失敗は見えていました。
現場の合意を取ってから進めるのではなく、トップダウンで意思決定し、現場には「協力」を求めるという形でなければ、進まないのです。
二つ目は、「部門長の逃げ」。
本来、現場効率化の最大の受益者は部門長です。
にもかかわらず、その部門長が「増員こそが解決策」と信じていました。むしろ、増員することで部門としての威厳を保ち、影響力が増すという考えの持ち主。
そして何より、「現場が嫌がっているから」という理由で判断を回避しました。これは、「責任を取りたくない」という保身の表れです。
このような部門長のもとでは、どんなに良いシステムを提案しても、絶対に根付きません。意思決定しない部門長のもとでは、どんなシステムも導入できないのです。
これが、今回の失敗の本質でしょう。
情シスが見抜くべきは「部門長の意志」
この構図は、決して特殊な話ではありません。
・営業部長が「Excelで十分」と思っている限り、SFAは導入できない
・人事部長が「人の勘と経験が大事」と信じている限り、タレントマネジメントは形だけになる
・「生成AIは思考力を奪う」と語る部門長のもとでは、AI活用も進まない
導入の可否を決めるのは、「技術」でも「業務フロー」でもなく、部門長の意思です。
逆に言えば、部門長が本気で変革を望めば、現場の反発を押し切ってでも導入は進むのです。それこそがトップの責任であり、役割のはずです。
だからこそ、情シスがシステム導入企画を進める際は、まず最初に「部門長の意思」を確認しましょう。
そこがブレている限り、いくら計画しても、稟議を書いても、無駄になります。もし部門長が乗り気でないなら、「無理ゲー」と割り切って早期撤退を考える必要があります。
無理に進めれば、情シス側の「信用」が削られていくだけです。
一方で、部門長に強い意志があり、情シスをパートナーとして頼ってくれるなら、いくら困難でも乗り越える価値があるのではないでしょうか。
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。