2023
10/19
失望
「ウチにはプロジェクトはやっぱり無理なんですよ」
ある会社では、これまで「プロジェクト」という形でシステム導入を進めたことがありません。
今回はじめて、情シスが「PMO」という役割を名乗り、現場を巻き込み、意欲的に進めていました。
ところが、3ヶ月を経過し、進捗が思わしくありません。
丁寧に引いた「WBS」ですが、誰もタスクをやってこないのです。
毎週の定例会で「進捗ゼロ」を確認しては、タスクをそれぞれ1週間引き伸ばすことの繰り返し…。
ユーザー部門は、これまで現場のルーティンしかやったことがありません。新しい仕組みの作り方、いつもと勝手の異なるタスクの進め方が、まったくわかりません。
ユーザー部門の現場リーダーにプロジェクトマネージャー(以降、PM)となっていただきましたが、そのPM自体がまったく動いていません。話をしても、PMの「理解不足」と「意識の低さ」が端々に出てきます。
しまいには、ユーザー部門から「自分の仕事が忙しくて無理」と言われる始末。出来ない理由や後ろ向きな発言が目立つようになりました。
PMOのAさんは、とてもショックを受けます。
Aさんは定例会を重ねるごとに、社内に対する「失望」が大きくなっていきました。
Aさんは、どうしていけばいいのでしょうか?
ダークサイド
PMOが一人で「空回り」するというのは、実はよくあります。
私も何度も経験してきました(苦笑)
本当に毎週、失望の連続です。
確かに現場は、目の前の「業務」で忙しいでしょう。でも全く時間がとれないのは納得できません。「忙しい」が言い訳にしか聞こえません。
なぜ協力してくれないのか…
プロジェクトは自分しかやってないじゃないか…
会社をもっと良くしていこうという気概はないのか…
みんな、ヌルすぎないか…
プロジェクトに熱くなればなるほど、周りとの温度差を感じていきます。
周りを見渡せば自分だけが浮いていて、孤独が深まります。
頑張れば頑張るほど、虚しくなります。
私はいくつものプロジェクトで、このような経験をしてきました。
だからAさんの気持ちは、痛いほどよくわかります。
影響の輪
一方で、多くの苦い経験をできたおかげで「よくあるパターン」の1つとして認識することができました。いちいち相手に振り回されて、自分が勝手に失望するのがバカらしい、と思えるようになりました。
経験を重ねると「最初はそんなもんだ」とすぐに開き直り、心のダメージも浅くなっていきました。
それは、PMOとしての「心構え」にあります。
PMOが遅れる理由をユーザーに求めてしまうと、状況は打開できません。むしろ、PMOが病んでいきます。
私は、苦しい時に以下を自問自答してきました。
・タスクの振り方が雑だったのでは?
・丸投げ感を出していなかったか?
・もっと実現可能なタスクに分解できなかったか?
・自分の言葉や話し方のテンションは適切だったか?
・ネガティブで楽しくない場をそのままにしていなかったか?
・もっとポジティブにモチベーションを上げる工夫は?
・よりユーザーに重要感を訴求する言葉は?
・もっとユーザーに寄り添える方法はなかったか?
・ユーザーと疎遠になっていなかったか?
・個別で話さず定例会のみで横着していなかったか?
・もっと手伝えることはなかったか?
・WBSの遅れはPMOの責任と覚悟をもっているか?
・遅れに自ら介入する覚悟を持てているか?
・本当に全力を尽くしたのか?
・自らは手を汚さず高みの見物をしていないか?
・進捗ゼロを見越して、会議中に進める工夫はできたか?
遅れている原因を自分以外に探し始めると、ユーザーの不甲斐なさばかりが目につき、これ以上の努力をしない今の自分を肯定することになります。
自分の「影響の輪」の中で、何ができるのかを考え抜き、やり抜くのがPMOだと考えます。その結果として「影響の輪」を広げて、大きくしていくのがPMOの真骨頂です。
ユーザー部門がプロジェクトに不慣れだからこそ、PMOの心が折れてしまったら「試合終了」なのです。
ターニングポイント
社内の「文化」を変えていくには、どれぐらい時間が必要でしょうか?
1日で変わるわけがありません。1ヶ月でも厳しいでしょう。それだけ大変なことです。
高齢層はもう保守的になり、希望を持てるのが若手の1人だけ。
仮にそんな状況だとしても、最初はそんなものではないでしょうか。まずはその人を成長させ、覚醒させ、徐々に波及させていくのが現実的です。
また、人の成長スピードはそれぞれなので、過度な期待は禁物です。でも、数ヶ月前と比べてみてください。確実に成長しているはずです。
最初からプロジェクトが機能するのであれば、もっと前から文化は変わっているはずです。なかなか変わらないからこそ、いまここでプロジェクトを組んでいるのです。
どうか諦めないでください。まだ諦めるには早すぎます。
あともう1ミリ手を伸ばした先に、会社の歴史を変えるチャンスが転がっています。
PMOが「変革リーダー」になるチャンスなのです!!
着火
Aさんは覚悟を決めます。
時間と労力を割き、現場のタスクを手伝いました。
情シスだから業務にはそこまで詳しくありません。それを逆手にとり、現場を巻き込みながら、進めていきます。
以前とは違い、丸投げではなく「協同」する形で進めました。最初は膨大な時間がかかりましたが、徐々にユーザーが要領を得ていきます。
個別に話して、フォローし、背中を押せば、少しずつ進むようになっていきました。
各現場にそのような「着火」をして回ります。
まだ「全自動」ではないですが「半自動」で回り始めました。
一足飛びにはいきませんが、3ヶ月前とは明らかにプロジェクトの空気が違います。中にいるAさんは気づかないかもしれませんが、外から見ている私には大きく変わってきていることを感じています。
プロジェクトは1人ではできません。絶対に無理です。
だからこそ、プロジェクトを組んでいます。
1人ではできませんが、全体に対する「着火」はできます。
少しずつ、確実に進めていきましょう!
貴社のIT部門・情報システム部門は、PMOとして失望していませんか?それとも希望をもってユーザーを巻き込めていますか?
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情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。