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RFP後にベンダー辞退続出の恐怖

2025

9/03

RFP後にベンダー辞退続出の恐怖

次々と3社辞退

「ベンダーが次々と辞退してきました。どうすればいいでしょうか…」

ある企業の情報システム部門(以降、情シス)から、緊迫した相談が寄せられました。RFPを送付後、現在ベンダー選定の真っ最中とのこと。

ところが、です。

提案を依頼していた5社のうち、なんと3社から立て続けに「辞退」の連絡があったそうです。「このままでは、残る2社すら辞退するのではないか」と、情シスメンバーは焦りました。

相談してきた若手メンバーは「胃がキリキリして、体調を崩しました」と心境を述べます。

その気持は、痛いほどわかります。

私自身、かつて同じような「恐怖体験」をしたことがあるからです。ベンダーが全員去ってしまうかもしれないという恐怖。会社に多大な迷惑をかける責任の重圧。それが自分一人にのしかかってくるのです。
当時、私も胃がキリキリしました(苦笑)

なぜ、ベンダーは辞退するのでしょうか?

その原因は何なのでしょうか?

現行システムの再現ではない

私はすぐにRFP(提案依頼書)を確認しました。そして、すぐに原因がハッキリしました。

そのRFPには、現在のスクラッチシステムで実現している機能と帳票が、すべて「必須機能」として列挙されていたのです。しかも書き方がやや高圧的で「我が社の基準に従わない場合は失格」といった内容すらありました。

ベンダーからの質問に対しても「これは必須機能です」と一蹴したとのこと。その翌日、ベンダーからの辞退が相次ぎました。

ここで、ハッキリさせておきたいことがあります。

新システムは、現行システムの「再現」ツールではありません。

ましてや、パッケージシステムにおいては「パッケージに業務を合わせる」という考え方が基本です。他社の「ベストプラクティス」が凝縮されたパッケージに合わせることで、はじめて「業務変革」につながります。

「再現性」ではなく、「変化量」こそがDXの本質です。

ベンダーとは一期一会

もうひとつ、大切な視点があります。

ベンダーは、この提案を「無償」で行っているということ。

もし落選すれば、ベンダーは貴重な時間と労力がすべて「水の泡」となってしまいます。にもかかわらず、自社の課題に向き合い、ノウハウと経験を盛り込んで提案してくれているのです。

無料で「個別コンサルティング」を受けているようなものです。

それに対して、調子に乗って高圧的に接すれば、ベンダーは「この会社は危険だ」と察知して撤退します。

発注側の態度ひとつで、「未来の選択肢」が失われていくのです。

提案してくれたベンダーは、この瞬間にしか会えない「一期一会」の存在です。落選する確率の方が高い中で、ベンダーの皆さまは自社のためにリソースを割き、向き合ってくれているのです。

それに対して、感謝の念を持たずに高圧的に接するのであれば、情シスとして向いていないと思います。

貴重な経験

その後、万が一に備えてRFPを修正し、再送付する準備を整えます。

幸いなことに、残る2社は辞退することなく、提案書を提出してもらえました。その内容も申し分ありません。

想定外で2社プレゼンとなりましたが、その後、出席した経営陣も絶賛するベンダーのパッケージを選定することができました。

「自分の間違いにようやく気づきました」

後日、情シスメンバーがそう語りました。

この企業は、今後も複数のシステム導入が予定されているとのこと。そのメンバーはまだ若いですし、今回の苦い経験は、きっと次に活きてくるはずです。

そして、優秀なベンダーに巡り合い、やがてDXが加速していくことでしょう。

貴社のIT部門/情報システム部門は、ベンダーとの「一期一会」に感謝の念を持って接していますでしょうか?

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御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか

情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。