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DX戦略においてAIは領域毎に分けて考える

2025

11/27

DX戦略においてAIは領域毎に分けて考える

情報を集めすぎた情シス部長の悩み

「AIが最近はいろいろありすぎて、どう整理すればいいですか?」

ある企業で、社長と情シス部長とともにDX戦略を策定中です。『AI』をどう位置付けるかが議題となりました。

この情シス部長は、日頃からAIにアンテナを張り、数多くのセミナーや展示会に参加。ChatGPT、Copilotなどの生成AIだけでは物足りず、国内外の広範囲なAIサービスからSaaSのAIオプションまで、実に多彩なAIソリューションをチェックされていました。

ただ、それだけに「情報を集めすぎた結果、逆にDX戦略にどう組み込めばよいか分からなくなってしまった」とのこと。

「最近のAIって、種類が多すぎて、どう検討すればよいか…」と頭を抱えていらっしゃいました。

このように、AIの技術が急速に進化し、選択肢が多様化した現在、DX戦略において『AI』をどう位置づけるべきなのでしょうか?

AIは全施策の前提

近年は、AIはDX戦略の単なる1つの施策ではなく、全施策の「前提」となっています。

従来のように、「AIプロジェクト」という単発の位置づけでは、カバーしきれません。すべての戦略・施策にAIが組み込まれる時代です。

これらのAIは大きく3つに分けると、整理しやすくなります。
・汎用生成AI(ChatGPT、Copilot、Gemini等)
・独自AI(自社データを学習させた専用AI)
・組み込みAI(SaaSや業務ツールに搭載されるAI機能)

以下、それぞれの特性と戦略的ポイントを見ていきましょう。

① 汎用生成AIは「全社員の知的インフラ」

ChatGPT、Copilot、Geminiといった生成AIは、すでに単なるツールではありません。文書作成、構想整理、アイデア出し、要約、説明、調査・分析など、様々な業務シーンで使える「第二のExcel」とも言える存在になりつつあります。

まずは、社内でいつでもどこでも使える「環境」を整えること。これにより、あらゆる業務シーンで現場が活用する可能性が広がります。

次に必要なのが「利用ガイドライン」です。情報漏洩、著作権、ハルシネーション対策など、利用ルールの明文化が欠かせません。

さらに、AI活用を促進するための「AI活用シーン集」や「AIチャレンジ企画」、「AI教育・研修」の設計もDX戦略の中に組み込みましょう。

ポイントは「使わせる」ではなく「当たり前に使える状態を作る」こと。AIをExcelのように自然に使いこなす「文化」の醸成が、全社的な知的生産性を底上げします。
 

② 独自AIは「競争優位の源泉」

独自AIとは、企業の機密情報(顧客データ、売上・原価・製造・販売データ、取引履歴、各現場データ、ナレッジやノウハウなど)を学習させた自社専用AIのこと。

ここでは単なるツール導入ではなく、企業の知的資産を「再定義」するという視点が重要です。

まずは、マニュアルやFAQを元にした「独自社内GPT」を小さく始めると良いでしょう。段階的にAIノウハウを蓄積し、要領を得て、社内外に応用、展開していきます。

ただし、ここで重要なのは「セキュリティ」です。

なぜなら、独自AIは企業の「機密情報」を扱うからです。万が一、情報漏洩などが発生すると、大きな損害が発生し、社会的信用も失ってしまいます。

そのため、外部のインターネットには接続せず、閉じたネットワーク内で完結させる構成を基本とすべきでしょう。

あわせて、AIモデルの再学習に使われない契約や設定にすることも重要です。

また、権限設定が甘いと、AIが「情報漏洩の抜け道」になる危険性があります。経営幹部しかアクセスできない情報を、一般社員がAIに質問して簡単に抜き出されるわけにはいきません。

そのため、各情報に対するアクセス権限もAIに引き継がせる仕組みが重要となります。

これらを要件として、あらかじめ盛り込んでおきましょう。
 

③ 組み込みAIは「既存業務の加速装置」

SaaSに標準搭載されているAI機能も、今や「オプション扱い」から「前提装備」へと移行すべき段階に来ています。

たとえばBox AIの要約機能、Salesforce Einsteinの顧客インサイト、SFAの見積書作成や訪問提案など、各業務ツールにおけるAIは業務の効率性・品質を大きく底上げします。

費用はその分かかるかもしれませんが、その分、品質や生産性が高まるなら、お釣りがくるのではないでしょうか。

「AIはオプション」ではなく、「AIがないと競争力が落ちる」という認識に切り替えるべきタイミングです。むしろ標準機能として積極的に取り入れる方針を宣言すべきでしょう。

AI方針を明記し、宣言する

「AIプロジェクトと一括りにしてたのが無理があったんですね」

社長と情シス部長は腹落ちした様子で、DX戦略に3つのAI方針を明記しました。今後は、この方針に基づき、各プロジェクトが立ち上がっていきます。

AIは、DXの1プロジェクトに留まりません。今や「全施策の前提」となっています。AIがあってこそ、各施策が一段上のステージで考えられるようになるのです。

貴社のDX戦略では、AI方針が整理されていますでしょうか?

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御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか

情シスコンサルタント
田村 昇平

情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。

支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。

多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。

また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。

「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。