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生成AIパスポートはデジタル人材育成で有効か?

2026

3/06

現場のAI活用

「この資格は役に立ちますか?」

支援先のある企業では、DX戦略において「現場のAI活用」が目玉となっています。

全社的なAIリテラシー向上のため、教育計画の一環として、AI系資格を検討しました。そこで「生成AIパスポート」が候補として浮上します。

そこで私は、実際に試験を受けてみることにしました。人材育成計画を立案するにあたり、自信を持って推奨できるかを見極めるためです。

そして、先日受験しました。今回はそのレポートです。

はたして、生成AIパスポートは役に立つのでしょうか?

生成AIパスポートとは?

生成AIパスポート試験とは、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)が主催する、「生成AIを安全かつ適切に活用するための基礎知識(リテラシー)」を問う民間資格です。

AIを開発する「エンジニア」向けではなく、AIを利用する一般的な「ビジネスパーソン」を対象としています。

出題範囲は、大きく以下の4つで構成されています。
① AIの歴史と動向
② 生成AIの仕組み
③ リスクとリテラシー
④ プロンプト(指示文)の基礎

オンライン形式の試験で、時間は60分、問題数は60問となっています。つまり、1問1分ペースです。

実務で役に立つのか?

ここからは、公式テキストを取り寄せて実際に勉強してみた感想です。

「実務で役に立つのか?」と問われたら「目的次第」だといえるでしょう。

まず、目的を「明日から業務で使えるプロンプトスキルの向上」とするなら、少し期待とは異なるかもしれません。業務で使うような実践的なプロンプト作成の問題よりも、AIの仕組みや背景知識を問う問題の比重が大きいからです。

一方で、ディープフェイク、RAG、AIエージェントなどの技術概要や、ハルシネーションが起きるケース、著作権侵害、個人情報・機密情報の漏洩リスクなどの「コンプライアンス・情報モラル」については、全社的なリテラシーの底上げとして非常に有用だと感じました。

ただ、全体的に「日々の業務操作には直結しにくい基礎知識」の割合が多い点が少し気になりました。

たとえば、AIの歴史です。第一次AIブームから第二次、第三次と現代に至るまでの変遷や、ChatGPTの過去の各バージョンの詳細などは、現場ユーザーの視点からは少し距離を感じるトピックです。

現在の最新モデルの特徴さえ把握していれば実務上は十分ですし、その最新情報すらもAIの進化スピードを考えればすぐに陳腐化してしまいます。

例えるなら、最新のWindowsを使っている人が、Windows95や98の歴史を詳しく勉強するようなものです。

歴史を学ぶことが無意味だとは言いません。過去の経緯を知ることで、これまでできなかったことができるようになった背景や、自社が取り組むべきタイミングを検討する材料にはなります。しかし、ユーザー向けの試験としては、少し歴史に割く分量が多いように感じました。

また、現時点ではGeminiが目覚ましい進化を遂げており、実務で活用しているユーザーも多い中で、出題内容がやや特定のモデル(ChatGPT等)に寄っている印象も受けました。このあたりは日進月歩の分野であるため、今後のアップデートで順次改訂されていくのかもしれませんが。

さらにネックと感じたのが、専門用語の多さです。

GAN(敵対的生成ネットワーク)、VAE(変分自己符号化器)、LSTM(長・短期記憶)などは、AIの内部構造(アーキテクチャ)に関する「開発者向け」の用語です。自己注意力(Self-Attention)や過学習なども、独自AIを開発・学習させる人には必須ですが、一般ユーザーにはややハードルが高い内容です。

もちろん、社内で「共通言語化」することで、ベンダー・情シス・法務・現場とのコミュニケーションがスムーズになる効果はあります。

しかし、日常会話ではあまり使わないアルファベットの羅列が多いため、実務に直結するかといえば、そうではないように思います。

ヘビーユーザーなら「ぶっつけ本番」で受かるか?

では、普段から生成AIを使い倒している人であれば、勉強しなくても受かるのでしょうか?

私は、生成AIを日常的に使い倒しているヘビーユーザーです。だからこそ「勉強しなくてもギリギリ受かるのではないか?」と甘い考えをもっていました。

しかし、それはチューブから直接吸う練乳よりも甘すぎました。

上記の通り、日常業務から遠いAIの歴史や専門用語は、操作に慣れているだけではまったく答えられません。4択問題ですが、4つの選択肢すべてを見たことがない状態になり、完全に「当てずっぽう」になってしまいます。

プロンプトなど使い方に関する問題は勉強しなくても解けますが、歴史と専門用語はしっかりとテキストを読み込まないと、極めて不利なギャンブルとなります。

実際の受験風景と落とし穴

実際に、オンラインで受験してみました。

60分で60問は、わりと余裕がありました。私はいつも時間切れになるタイプですが、それでも45分で終えました。

知識を問う問題が中心であるため、「知っているか知らないか」で解答のスピードがはっきり分かれ、あまり悩む余地がないからです。

ただ、オンライン形式の試験全般に言えることですが、途中でネットワークが途切れると致命的です。カフェの公衆Wi-Fiなどは一定時間で切れることがあるため、ご自宅や会社の安定したネットワーク環境での受験を強くおすすめします。

AI活用の仕組み化

本題です。会社としてこの資格は導入しない方がよいのでしょうか?

一般企業においては、この資格を全社員に「義務化」することは推奨しません。

実務とかけ離れている内容も含まれるからです。現場から「実業務に関係ない勉強をさせられた」という反発を生む可能性があります。

しかし、「資格取得支援制度」としては導入すべきでしょう。

受験するための補助金や、合格時に少額の祝い金などを設定するのです。

例えるならば「簿記検定」と同じです。

簿記検定でも、手書きの仕訳や古い帳簿の知識など、会計ソフト全盛の時代には実務で直接使わない内容が多く含まれます。しかし、それを学ぶことで「全体の構造」を把握でき、完全なブラックボックス化を防ぐことができます。イレギュラー発生や障害時にも、個別に対応できます。決して無駄にはなりません。

生成AIパスポートの「歴史」や「専門用語」もこれと同じです。実務の最前線では使わなくとも、AIの成り立ちや限界を構造的に理解するための「教養」として機能します。

会社として受験補助や祝い金という「予算」をつけることは、社員に対する最も明確で強力なメッセージになります。「我が社は本気でAI活用を進める」というカルチャーを醸成する仕組み化の一つです。

リトマス試験紙

そして、最大のメリットは別にあります。

少額のインセンティブであっても、自発的に手を挙げて勉強し、合格してくる社員は、間違いなく「知的好奇心が高く、変化への適応力がある人材」です。

経営者や情シスが、各部署でAIの業務適用を進める際、こうした「パスポートを自発的に取得した社員」を現場の推進リーダーとしてアサインすれば、プロジェクトの成功率は格段に上がります。生成AIの教養とモチベーションの両方をすでに備えているからです。

生成AIパスポートは、全員への義務化には向きません。

しかし、AI活用の「社内風土醸成」と、各部署の「DX推進キーパーソン」をあぶり出すためのリトマス試験紙として、非常に有効な経営施策となります。

貴社では、「生成AIパスポート」はどのような扱いになっていますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。