2023
3/24
不釣り合いな人選?
「自分はそんな大役は無理です」
ある現場では、IT戦略が完了し、プロジェクトを立ち上げるフェーズに入りました。
最も重要で、かつ一番はじめにやることは「プロジェクトマネージャー(以降、PM)」の任命です。
新システムの導入では、導入先のユーザー部門からPMを出すのがセオリー。
そこで、ユーザー部門の部長に相談したところ、中堅社員のAさんにお願いすることにしました。
Aさんは、一言でいうと「おとなしい人」です。
依頼したタスクは確実にこなすマジメな人ですが、あまり人前で話すのを見たことがありません。
打診したところ、さっそく辞退の申し出がありました(苦笑)。
しかし部長はそれを気にもとめず、強引に決めてしまいました。
果たして、この人選は成功するのでしょうか?
PMの向き・不向き
そもそも、どのような人がPMに向いているのでしょうか?
真っ先に思い浮かぶのは「営業系」の人です。
社交的で人と話すことが仕事でもあるので、PMというポジションに気後れしません。
実際、何度もこのタイプのPMと一緒に仕事をしましたが、抜群の安定感です。
社内の定例会やベンダーとの進捗会議でも、場をうまく仕切って進めていきます。
推進力があり、周りのメンバーは引っ張られます。
遅れている人がいれば、お尻を叩きながら、全体を鼓舞していけます。
一方で、マイナス面としては「対人力」が強すぎるため、時に強く言われた人がダメージを追う場合があります。
社内メンバーしかり、ベンダー側もしかり、攻撃(口撃)が行き過ぎると「空中分解」のリスクが生じます(何度か経験しました…)。
チームビルディングの別アプローチ
では次に、社交的でない人がPMをやった場合を考えてみましょう。
一見、PMには不向きですが、こちらも私は何度も経験しました。
人前で話すことに慣れていないため、最初は本当に頼りない感じです。
何度も会議の途中でつまずいてしまうので、PMO側の会議準備や進行フォローの負担は大きくなりました。
このタイプのPMは責任感が強いため、夜遅くまで残って、何とか頑張ろうとします。
すると、そんなPMを周りがフォローしだしました。
会議で詰まったら、誰からともなくフォローが入ります。
指示されるのではなく、自発的に周囲のメンバーがタスクを担って、PMを助けようとします。
もともとの人徳がベースにはありますが、全員でその「神輿(みこし)」をかつごうとチームが結束したのです。
決してPMは無理な指示をしないので、それが逆に周りの自発性を引き出します。
他方、PMの方も徐々に主体性を帯びていきました。
責任感が強いので、自ら調べ、ベンダーに確認し、準備を入念に行うスタイルが定着します。
PMは会議が非常に多いので、否応なしに場慣れしていきます。
人前で話す苦手意識はなくなり、ついにはステコミで経営層に堂々と説明するようになりました。
つまり、チーム全体が主体的な上にPMが覚醒すると、プロジェクトとしては非常に理想的な状態に仕上がっていくのです。
ちなみに、このマイナス面は、即効性がないこと。
効果が出るまで我慢強く、長期戦を覚悟しないといけません。
成果を焦るあまり、我慢のできない上司がいたり、攻撃性の高いメンバーが下にいたりすると、PMは突然いなくなってしまいます。
プレッシャーで潰れてしまい、精神が病んでしまうからです。
このフォーメーションは、慎重に周りを固める必要があります。最初は上司が保護し、周囲が献身的に支えないと、立ち上がりません。
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まとめると、PMは社交的であっても、そうでなくてもできます。
人材戦略の側面では、PMを通じてその人材を覚醒させるチャンスでもあり、上司の責任と覚悟も問われます。
次世代のリーダーを育てたいなら、ぜひ「機会」を与えてあげてください。
立場が人を育てる
冒頭のAさんを任命して、6か月が経ちました。
最初のころは会議中に話を振っても、まともに返すこともできませんでした。
ステコミで経営層向けに報告するときは、緊張しすぎるAさんを見て、私もすごく緊張しました。
しかし、ある日を境に覚醒しました。
会議では、社内もベンダーでも、必ず確認や質問をします。
ステコミでは、落ち着いて自分のペースで説明をします。
1人で積極的に、経営層や部門長に相談にも行っています。
もはや疑いようのない「頼もしいPM」です。
立場が人を育てる。
その言葉の意味を深く理解しました。
任命した部長は「俺は最初からこうなると思っていた」とドヤ顔です(笑)
貴社のプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーをどのように決めていますでしょうか?
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情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平
情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。
システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。
近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。
膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。
主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。