2024
6/14
部長からの指示
「部長から指示されたので・・・」
ある現場の情シスをお手伝いすることになりました。
直近の活動を聞いてみると「EDR」のトライアルを実施したとのこと。
EDR(Endpoint Detection and Response)とは、ネットワークに接続されたパソコン等のセキュリティを強化するための技術です。
ところが、そのトライアルは2ヶ月苦労した末に、不採用となったそうです。
私は情報システム課長のAさんに「不採用の理由は?」と聞くと、「私は良いと思ったんですけど、上がNGを出して・・・」と歯切れがよくありません。
そこで「RFIやRFP、あるいは検討資料を見せてください」とお願いすると、「ありません」と答えます。
「どうやってこのベンダーを見つけたんですか?」と聞くと「上司である総務部長が見つけました」とのこと。
ようやく事態を理解できました。
どうやら、総務部長がインターネットで見つけたEDRに興味を持ち、Aさんに打ち合わせをセッティングさせたとのこと。その場でベンダーから提案があり、1ヶ月のトライアルを実施しました。
その後、部長から「あれはできないのか」「これはできないのか」と要望が相次ぎ、トライアルを延長した2ヶ月後に、部長から「NG」と言われたそう。
理由は「思っていたイメージと違う」と何とも抽象的でした。
総務部情報システム課
さて、ここの情シスは「総務部情報システム課」です。
中小企業は、このパターンは一般的です。情シス課は3名、組織として小さいので「部」にはなりません。
間接部門として、総務部の下にぶら下がっています。
ここで問題なのは、情シス課長の上司が、ITに詳しくない「総務部長」となること。
Aさんに聞いてみると、疑問に思う指示が多いそうです。
ですが、組織人として、従わないといけません。反発したら人事考課でマイナスです。何かをやる場合にも、常に総務部長の承認が必要です。
「情シスが『部』ではなく『課』なので裁量がなく、ITを知らない上司に振り回されています…」
「そのクセ、たまたま成果が出たら手柄を全部もっていき、調子に乗ってまた新しいことを始めようとします」
「そもそも日常のヘルプデスクや運用保守がどれだけ大変か、理解されていません」
Aさんの愚痴が止まりません(苦笑)。
情シス課長Aさんは今後、どのようなスタンスで進めていけばよいのでしょうか?
情シスの「部」と「課」の違い
まず、情シスが「部」とか「課」は関係ないと考えます。
もし仮にAさんが「情シス部長」だったとすると、その上司は「社長」になるかもしれません。
社長もまた、ITを専門にしているわけではありません(たまにビックリするほど専門家もいますが…)。
IT素人の社長が、情シス部長に「無茶ぶり」するのは、いつものこと。
むしろ社長の指示は、その無茶ぶりのスケールが大きすぎて、情シス部長は皆さま悶絶しています(苦笑)。
情シスは「部」だろうが「課」だろうが、「情シス」です。
情シスがITで会社を支え、ITで会社を成長させる。
ここに、変わりはありません。情シスこそが会社の「成長エンジン」です。
その上で、上からの指示にどう「反応」するか。ここが情シスの腕に見せ所ではないでしょうか。
沿いつつ、ずらす
会社方針としての、上からの指示に「大枠」は従う。
だけど、詳細は「アレンジ」する。
もっと言えば、指示に対して「沿いつつ、ずらす」です。
IT専門家として、より良い「提案」や「選択肢」を上司に示して、誘導します。
その上で、手柄はすべて総務部長にあげてしまう、社内の評価もプレゼントする、で良いと思います。
その対価として、「実績」と「経験」を積み上げていくことを今は優先しましょう。
社内の評価は相対的かつ一時的。その会社でしか通用しないものです。
他方、経験値は個人に一生残る財産となります。
いま大事なのは「主体性」を持つこと。主体性がないと「ノウハウ」が得られないからです。
「受け身」で「指示待ち」が体に染み付く方が、致命的にマズイと思います。
もし今後、会社が大きくなって情シスが「部」に昇格し、攻めと守りで複数チームが構成されていくとき、指示待ちは隅に追いやられます。
外から転職してきた人に、都合よく使われるだけです。
そうではなく、情シスが大きくなっていく過程で、常にITをリードし「攻守兼備」で会社に貢献すること。
組織としては「課」だけど、常に独立した「部」の意識で責任感を持ち、前を向くこと。
このスタンスは、きっと将来を大きく変えると思います。
その「練習台」が総務部長と思えばいいんです。
そう捉えると、モチベーションが保てるし、感謝の気持ちも芽生えます。
成果を出し続ければ、徐々に裁量も広げてくれます。
むしろ味方にしてしまえば、今の自分の権限以上のことができます。
今置かれた「環境」をうまく利用し、将来をデザインする。この発想が重要だと思います。
主体性をもてばノウハウが溜まる
「部長に許可をもらいました!」
今回、AさんはまずRFI・RFPのノウハウを整備することを決めました。
EDRのRFIを作るため、部長にヒアリングしました。
すると、公にされていない「セキュリティ事故」が背景にあることがわかりました。そこから必要となる「要求機能」を定義します。
部長の承認をもらい、ベンダーにRFIを投げて、市場調査を始めました。
主体性を持てば、ノウハウは溜まっていきます。
部長が味方になり、裁量が広がります。
これから、情シスの「組織戦略」を策定し、役割を拡張していき、いずれ「部」にしていきましょう!
貴社の情シスは「上長の指示」をうまくさばけていますでしょうか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。ぜひこちらからご登録ください。
情シスコンサルタント
田村 昇平
情シス(IT部門、情報システム部門)を支援するコンサルタント。
支援した情シスは20社以上、プロジェクト数は60以上に及ぶ。ITベンダー側で10年、ユーザー企業側で13年のITプロジェクト経験を経て、情シスコンサルティング株式会社を設立。
多くの現場経験をもとに、プロジェクトの全工程を網羅した業界初のユーザー企業側ノウハウ集『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』を上梓、好評を得る。同書は多くの情シスで研修教材にもなっている。
また、プロジェクトの膨大な課題を悶絶しながらさばいていくうちに、失敗する原因は「上流工程」にあるとの結論にたどり着く。そのため、ベンダー選定までの上流工程のノウハウを編み出し『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』を上梓し、情シスにインストールするようになる。
「情シスが会社を強くする」という信念のもと、情シスの現場を日々奔走している。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。