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クラウド全盛時代に「数千万円のオンプレ更新稟議」が上がってきたらどうすべきか? 〜オンプレミスの5つの致命的なデメリット〜

2026

4/03

数千万円の稟議書への違和感

「オンプレサーバー入れ替えの稟議書が回ってきたのですが、承認してよいのでしょうか?」

ある企業の経営者から、戸惑い交じりのご相談を受けました。

その企業では、メイン業務のシステムやファイルを長年オンプレミス(自社運用)のサーバーで稼働させていました。しかし、そのサーバーの正規サポート期限が「半年後」に迫っています。

そこで、情シス部長から上がってきたのが、数千万円というそれなりの規模になる「オンプレサーバーの新規買い替え」の稟議書でした。

経営者は、その金額と内容に違和感を覚え、「待った」をかけました。そして、客観的な評価を求めて、私のところに相談に来られたのです。

はたして、クラウド全盛の時代に、高いお金をかけて新しいオンプレサーバーに買い替えた方がいいのでしょうか?

言い換えると、現代のデジタル基盤として、オンプレサーバーは継続すべきなのでしょうか?

一般的なメリット・デメリットの罠

ITインフラとしてオンプレミスを評価する際、一般的には以下のようなメリットとデメリットが挙げられます。

<オンプレミスのメリット>
・カスタマイズの自由度が極めて高い
・セキュリティとデータガバナンスを完全に自社で統制できる
・ランニングコストの予測や固定化が容易である
・低レイテンシ(遅延が少ない)

<オンプレミスのデメリット>
・多額の初期費用がかかり、調達リードタイムも長い
・リソースの柔軟性や拡張性(スケーラビリティ)に欠ける
・情シス部門の運用・保守の負荷が非常に重い
・BCP(事業継続計画)や災害復旧(DR)のハードルが高い

これだけを見ると、メリットとデメリットが半々に思えます。
どちらを選んでも正解のような気がしてきます。

特に、「防衛産業」や「金融機関」など、極度の閉鎖網が求められる特殊な要件下では、オンプレに明確な優位性があるでしょう。

しかし、次の文脈で評価すると、事態は一変します。

「情シスという組織をどうデザインし、どのような人材を育成するか」

この場合、オンプレを維持することで、既存の「運用保守チーム」の雇用や役割を数年間維持するという現実的な側面があります。

ですが、メリットはそれだけです。極めて限定的と言わざるを得ません。

一方で、組織戦略から見たオンプレミスの「デメリット」は、会社の未来を左右するほど深刻です。

情シス組織戦略から見たオンプレミスの「5つの致命的なデメリット」

情シスを「事業に貢献する組織」へ変革していく上で、オンプレミスには5つの致命的なデメリットが存在します。

1.ベテランの自己満足と「聖域化」による標準化の崩壊

オンプレミスは、特定のハードウェアや、構築した担当者の設計思想に強く依存します。これが「属人化」の最大の温床となります。物理的な機器が目の前にあることで「自分が構築した」という手触りがあり、保守やトラブル対応で己の知識を駆使して解決することで、周りからの賞賛と強い達成感が得られます。

サーバールーム独特の荘厳な雰囲気、匂い、少し寒い空間。そして、サーバーの裏でスパゲッティ状態になったコードすら、彼らには美しく見えてしまうものです。手がかかるからこそ愛着が湧き、いつしかそこは「ベテランの自己満足」を満たすためのアンタッチャブルな「聖域」と化します。これが、システムの標準化を根本から阻害してしまうのです。
 

2.世代間のスキル断絶と若手への「引き継ぎ不可能」な現状

ITインフラの主流が「クラウド」へと完全に移行した現代において、若手エンジニアの多くはクラウドに触れることはできても、オンプレミス環境には触れる機会がありません。

一方で、オンプレを自らの手で構築してきた職人世代は、これから次々と引退していきます。結果として、全く異なる技術基盤を持つ若手への引き継ぎは極めて困難になっています。自社内でオンプレを維持できる人材は枯渇の一途を辿り、今後の情シス組織にとって、オンプレミスは確実に致命的な「足枷」となります。
 

3.「クラウドからの逃避」と攻めのITへのリソース枯渇

確かに、5年、10年と長く使う前提であれば、オンプレミスのコストは圧倒的に有利に見えるかもしれません。しかし、BCP対策として完璧な「冗長化」を求めた瞬間に、そのコスト優位性は失われます。何より、オンプレの終わりのない運用保守に多大な工数を奪われ、情シスが「攻めの領域」へ向かう時間を捻出できなくなります。

最大の問題は、オンプレに愛着が湧くほど、クラウドから遠ざかってしまうことです。クラウドのスキルアップの優先度が下がり、クラウド人材の積極的な採用もしなくなります。現代は、各クラウドの特性を知り、長所を生かして組み合わせることでパフォーマンスの最大化とリスクヘッジを図る「マルチクラウドの時代」です。その土俵にすら上がれなくなってしまうのです。
 

4.ランサムウェアの最大標的という「責任の重圧」

思い出していただきたいのは、近年の猛威を振るう「ランサムウェア」の攻撃は、基本的にオンプレミスがターゲットであるという事実です。「データを手元に置いているから安全」というのは大きな勘違いであり、オンプレにデータを抱え込むことこそが、セキュリティ上の最大のリスクなのです。

名立たる大企業ですら、ランサムウェアの被害に遭い甚大なダメージを受けています。「あそこよりもウチのセキュリティの方が強固だから大丈夫だ」などと断言できる企業が、果たしてどれほどあるのでしょうか。オンプレにこだわった結果、万が一攻撃を受けて事業が停止した場合、情シスはその重すぎる責任を取れるのでしょうか。
 

5.データサイロ化による「生成AI・ビッグデータ活用」の完全な阻害

クラウドから遠ざかるということは、そのまま「AIの接続から遠ざかる」ことを意味します。

企業がビジネスを変革するために生成AIやビッグデータを活用しようとしても、データがオンプレミスの閉鎖網に幽閉(サイロ化)されていては、シームレスな連携は不可能です。自社内にどれほど貴重なビッグデータが眠っていようとも、それを活用する術を失い、最新のデジタル技術の活用において他社から完全に「周回遅れ」となってしまいます。

経営とITを融合させる上で、オンプレミスはデメリットが大きすぎると言わざるを得ません。

次世代のデジタル基盤のグランドデザイン

だからといって、いきなり明日から「フルクラウド」にする必要はありません。段階的にオンプレサーバーを減らしていくことが現実的です。

機密情報を隔離したり、アーカイブとして保管したりする「スタンドアロン」の役割としては、オンプレミスは非常に適切です。

メインデータはクラウド(データレイク等)に集約し、いつでも最新のAI技術やSaaSと連携できる「AI-Ready」な状態を作ること。これこそが、他社に対する競争優位性の源泉となります。

また、一部をオンプレとして残すことは、これまでシステムを守ってきたベテランたちに「最後の砦(金庫番)」という新しいプライドと明確な役割を与えることにも繋がります。

ベテラン情シスの急激なハレーション(反発)を防ぎ、組織をパニックに陥らせることなく、着実な変革を進めることができるのです。

AI活用を優先してクラウドを推進するのか。クラウド化するにしても、悲観的にセキュリティを高め、国内のプライベートクラウドに限定して情報流出を防ぐのか。

これはもはやIT部門の技術論ではありません。

「自社のビジネスにおいて、どこまでリスクを許容し、どこまでリターンを狙うのか」という経営層の意思決定(ガバナンス)そのものなのです。

経営がリスクを背負い、退路を断つ

「第三者保守を利用して1年延命し、その間にクラウドシフト計画を立てるように」

冒頭の企業では、経営者から情シス部長へ明確な指示が出されました。

メーカーの正規保守切れの後は第三者保守に切り替え、延命できた1年間でシステム・ファイルの「棚卸し」と「データ分類(パブリッククラウドに置けるもの、置けないもの)」を行うことになりました。

厳選した機密情報だけを残すため、次に調達するハードウェアは最小限のスペック(NASや小型サーバー等)とし、初期費用とランニングコストを大幅に圧縮する計画です。

しかし当初、情シス部長はなかなか首を縦に振りませんでした。

万が一、延命中にハードウェア障害が起きてシステムが止まった場合、「なぜ保守切れのサーバーを使い続けたのか」と責任を問われることを極端に恐れていたからです。

そこで経営者は、情シス部長にこう明言しました。

「1年間の延命中に万が一ハードウェア障害が起きた場合、復旧に時間がかかるリスクは経営として許容する。情シスの責任にはしない」

経営トップが自らリスクを背負い、退路を断ったのです。

その言葉を聞いて、情シス部長はようやく不安が払拭されたのか、力強く快諾しました。

現在、同社ではクラウドシフト計画の策定が進んでいます。同時に情シスのスキルシフトも行い、重点的にクラウドノウハウを蓄積するため、その主担当に若手メンバーがアサインされました。

グラデーションのように、緩やかに、しかし確実に、世代交代と技術シフトが進んでいます。

これこそがDX戦略であり、組織戦略であり、ひいては経営戦略とリンクするということです。

貴社には、まだオンプレサーバーがありますでしょうか?それは、情シスの組織戦略として、どのような位置づけでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。