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情シスを増員したのに忙しさが変わらない本当の理由

2026

5/14

優秀な人材を採用したのに楽にならない

「2名増員したのに、まったく楽にならない」

A社の情シス部長が、頭を抱えながらつぶやきました。

最近は、エージェントから多くの人材紹介を受けられるようになりましたが、まさに「玉石混交」です。

「どうしても来てほしい」と思える優秀な人材と出会える確率は決して高くありません。

その中でA社は、情シス経験が豊富で、なおかつ優秀だと感じたメンバーを、ここ数ヶ月で2名も採用できました。これは非常に運が良いことです。

情シス部長は張り切り「これでいよいよDX推進ができる!」と息巻いていました。

しかし、蓋を開けてみるとどうでしょうか。

その新規メンバー2人も含めて、情シス全員が依然として日々の業務に忙殺されているのです。

新メンバーは即戦力として、目の前のヘルプデスク対応を手伝ってくれていますが、一向に忙しさが解消されません。

なぜ、優秀なメンバーを増員しても、情シスは一向に楽にならないのでしょうか?

ヘルプデスクは工数を無限に吸い込む「スポンジ」

その原因は「ヘルプデスク」です。

増員した分、ヘルプデスクが手厚くなったのです。

ユーザーへの対応には、際限はありません。手厚くすればするほど、工数を無限に使ってしまうからです。

これは、情シスメンバーが不真面目だから起きるのではありません。逆です。真面目だからこそ、ユーザーに「親切丁寧」に対応しようとして、時間と工数を過剰に使ってしまうのです。

つまり、ヘルプデスクは「スポンジ」と同じです。

かけようと思えば、いくらでも無限に工数を吸収してしまいます。

これは、情シスメンバーが悪いわけではありません。組織拡大の「進め方」の問題なのです。

増員が先だと、情シスは「何でも屋」に転落する

では、「進め方」の何がいけないのでしょうか。

情シスの増員には注意が必要です。新しい役割とアサイン人数を決めずに、「先に」情シスの人数だけを増やしてしまうと、どうなるか。

情シスメンバーは、目の前のユーザーからの問い合わせという「緊急対応」を優先するに決まっています。新しく入ってきた2人も、「早く戦力化して情シスに貢献しよう」と、一番手を付けやすいヘルプデスク業務で協力してしまいます。

すると、既存メンバーには時間的な「ゆとり」が生まれます。

ゆとりは良いことだと普通は思うでしょう。しかし、当事者にとってみれば仕事がない状況は不安です。自身の存在価値が脅かされています。周囲から「暇な人」だと思われるのは避けねばなりません。

その結果、何をするか。

より丁寧にヘルプデスク対応をしてしまうのです。

メールではなく電話や直接対面で説明する。ユーザーに手順を案内するのではなく、自身が全ての対応を巻き取ってしまう。そのユーザーのためだけに、図解入りの専用マニュアルを力作する。そして、対応後の世間話に花を咲かせる(対応時間より長くなることも…)。

これではキリがありません。

余力ができた分だけ、ヘルプデスクが過剰に丁寧に行われるだけです。

ヘルプデスクが過剰な「職人芸」となり、属人化が進みます。ユーザーはその過剰サービスが当たり前だと勘違いし、情シスへの依存体質が強まります。ユーザーの「ITリテラシー」を底上げしたいのに、逆にレベルが低下していく。

まさに悪循環です。

次第に、情シスは「何でも屋」や「雑用係」に堕ちていきます。ITと直接関係のない「プリンタの紙詰まり」等も、情シスが呼ばれるようになります。

これが進むと、情シスは社内で下に見られます。経営層のパートナーではなく、現場の「下請け」に成り下がるのです。

社内では「情シスが攻めのDXを担うのは場違い」という雰囲気になり、雑用で忙殺される情シスを見た経営層からも期待されなくなります。

結果として、会社の「攻めのDX」は一向に進みません。情シスの守りは手厚くなるかもしれませんが、攻めは手薄なままなのです。

人を増やす前にやるべきこと

では、どうすればいいのでしょうか。

先に「新しいタスク(攻めのタスク)」を決めること。そして、それを割り当てることです。

すると、情シスとして、ヘルプデスクにばかり時間を割いていられなくなります。

「増員が先」ではなく、「新しいタスクが先」なのです。

新しいタスクが増えると、情シスメンバーは時間的に苦しくなります。これまでのように、ヘルプデスクに無尽蔵の工数をかけていられない、という空気になってきます。

すると、組織として「筋肉質」になる方向に自然と向かっていくのです。

ヘルプデスクは「塩梅」が大事です。120点の過剰な対応で感動を呼び起こす必要はありません。最終的に課題が解決するなら、80点でもいいのです。

電話で細かく連携をとるのが親切かもしれませんが、メールやチャットで事足りるなら、その方が効率的です。非同期コミュニケーションの方が、同時並行で数をさばけます。

もう少し視座を上げてみましょう。

問い合わせの「窓口」を完全に一本化し、見える化します。その上で、全員が受け付けるのではなく、一部の担当メンバーに絞ります(特に「攻め」のタスクを持つメンバーには受け付けさせない)。優先順位をつけて、適切なメンバーに割り振る仕組みを作り、「個人指名」をなくします。

既存タスクに無駄がないか。ベンダーに任せられるところはないか。マニュアルを整備してユーザー部門に引き継げないか。FAQを整備して、ユーザーの自己解決率を上げられないか。システムのUIを改修して、そもそも問い合わせを無くせないか。

このように情シスの既存タスクをスリム化して初めて、新しいタスクに時間を少しずつ割けるようになります。

情シスのパフォーマンスを上げる急所は、まさに「ヘルプデスクの省力化と効率化」です。ここの生産性なくして、情シス全体の生産性は上がりません。

情シス部長の役割

「情シスの役割整理をしないといけませんね」

冒頭の情シス部長が、深く頷きながらつぶやきました。

まさにその通りです。これらを全体設計するのが、情シス部長の役割です。

情シス部長が一番忙しいかもしれませんが、これをやらない限り、情シス部長自身も情シス全体も忙しいままなのです。

既存タスクをスリム化し、情シスを筋肉質にする。それでも、新しいタスクを十分に担えるほどのまとまった工数が確保できない。

そうなった時、ようやく「新しい人」を採用するのです。

若手を採用してヘルプデスクを引き継ぐのか、あるいは攻めのスキルをもった即戦力を採用するのかは、情シスの状況次第です。

しかし、変えてはいけない鉄則があります。

まずは情シスの新しい役割を設け、新しいタスクを先に割り当てること。間違っても、増員を先に進めてはいけません。

今こそ、情シスを筋肉質にして、徐々に攻めの領域を増やしていきましょう!

貴社のIT部門/情報システム部門は、ヘルプデスクが「スポンジ」のように工数を吸っていませんでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。