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そのDX戦略、社内調査だけで本当に大丈夫ですか?

2026

7/23

わざわざ時間を割かなくても⋯

「競合他社の調査まで必要ですか?」

A社の情シス部長から、素朴な疑問が出ました。

A社は、ある地方の地元密着型の中小企業(製造業)です。現在、DX戦略の策定に向けて、最初の調査フェーズに入っています。私が競合他社の調査について説明したところ、冒頭の一言が返ってきました。

その気持ちは、よく分かります。

DX戦略を考えるうえで、まず重要なのは「自社がどれだけIT化・デジタル化できているか」です。

たとえば、基幹システムがレガシー化していれば、そこを変えない限り、最新技術には接続できません。セキュリティが脆弱なままでは、クラウド活用を広げるほど危険性が増します。今どれだけデジタル化できているかによって、これから取り組むべきことは大きく変わります。

そう考えれば、何よりも「社内調査」が最優先に思えます。

現行システムの状況、IT化・デジタル化の到達度を、細かく調べていく。しかも調べれば調べるほど詳細な情報が出てくるので、かなりの時間を取られます。

一方で、社外の情報、とりわけ競合他社の状況は、調べるのが難しいものです。手元に情報がないため、インターネットやメディアから地道に探すしかありません。

社内調査だけでも膨大な時間を取られるのに、わざわざ社外の競合まで調べる必要があるのでしょうか?

システム企画書とDX戦略は、レイヤーが違う

これが単なる「システム企画書」であれば、競合調査までは不要でしょう。

現行システムを調査し、課題を可視化し、その課題を解決するためのシステム要求機能を定義する。それで十分です。

しかし、DX戦略は、それとはレイヤーが異なります。

DX戦略において、競合調査は欠かせません。

結論から言えば、社内調査よりも、競合調査の方が重要です。

なぜでしょうか?

DXの必要性は、自社の中ではなく、社外の状況によって決まるからです。

DXとは、単なる社内のデジタル化ではありません。競争力・顧客価値・事業モデルそのものを変える取り組みです。

自社だけを見ていると、どうなるでしょうか。

「社内では改善したが、市場では遅れている」という事態に陥りかねません。

社内でDXを完璧に仕上げたつもりでも、競合に後れを取っているなら、それは自己満足にすぎません。競争に負けて自社が滅んでしまえば、元も子もないのです。

社内調査とは、自分の身体の数値を測る行為です。しかし、その数値が健康なのかどうかは、基準値がなければ判断できません。その基準値にあたるのが、競合調査なのです。

自社だけを見て策定すると、論点はこうなりがちです。

・紙を電子化する
・手入力を減らす
・システムを刷新する
・業務を効率化する
・データを一元管理する

どれも重要です。しかし、これらは結局「社内改革」に終始しています。

「社内改革」は、DXのスタートラインにすぎない

DX戦略では、それらは「前提」にすぎません。そのうえで、新たに次のことが問われます。

・デジタルに慣れた顧客は、これからどんなサービスを求めるのか
・競合は、どのような顧客体験を提供し始めているのか
・自社の強みは、デジタルによって陳腐化しないか
・テック企業が、異業種から参入してこないか
・デジタル社会で、将来どこで利益を生み出すのか

ここを把握してはじめて、自社のDXが「相対的」に遅れているのか、進んでいるのかが見えてきます。

そして、競合が便利なデジタルサービスを出すと、それが顧客にとっての「標準」になります。

たとえば、ある会社が「24時間Web注文」や「即時の納期確認」を実現したとします。すると顧客は、他社にも同じ利便性を求めるようになります。自社がそれをできていなければ、どんどん置いていかれるだけです。

つまり、競合のDXは、単なる「その会社の取り組み」では終わりません。自社の顧客の期待値まで、勝手に引き上げてしまうのです。

もしかすると、自社のDXは自己評価が高いだけの、独りよがりかもしれません。競合が軒並みデジタルサービスを展開しているなかで、自社だけが取り残されているとしたら。

それは「ガラパゴス化」です。

社内では最先端のつもりでも、市場から見れば周回遅れ。極論すれば、DX戦略そのものが間違っていた、ということになります。

それを客観的に、突きつけてくれるのが競合調査です。

競合と比較することで、

・すでに業界標準となっており、早急に追いつくべき領域
・他社がまだ実現しておらず、差別化できる領域
・他社が導入したものの、効果が限定的だった領域

これらを見極められるようになります。

競合と並べて、はじめて自社のDXの進捗が測れます。市場が求めるものにキャッチアップできているかどうかが、ようやく分かるのです。

見るべきは「社外DX」──それは、見える

では、競合の何を調べればよいのでしょうか?

他社の基幹システムがどうなっているか、バックオフィスのデジタル化がどこまで進んでいるか。こうした「社内DX」は、外からは見えません。取材でも受けない限り、調べようがないのです。

ですが、それは重要ではありません。

見るべきは「社外DX」です。そして、社外DXは見えます。

顧客に対して、どのようにサービスを提供しているのか。どんな情報発信をしているのか。自分たちを、どう見せているのか。

たとえば、次のような取り組みは、すべて公開されており、調査が可能です。

(1)集客・情報発信

ホームページの充実度(導入事例、ノウハウ記事、資料請求の導線)、SNSの活用(X、YouTube、LinkedIn等の使い分けと発信内容)、ホワイトペーパーやウェビナーの提供状況。これらは、WebやSNSでほぼ100%調べられます。
 

(2)取引・セルフサービス機能

Web受注や顧客専用ポータルの有無、在庫・納期のリアルタイム照会、見積書の即時発行、発注履歴からのワンクリック再注文。ログイン画面や案内ページから、機能の範囲まで読み取れます。
 

(3)先進技術の活用

AIチャットボットによる問い合わせ自動化、AIによる商品・プラン提案、製品自体へのAI・クラウド技術の組み込み。これらは、製品仕様やリリース情報から確認できます。

つまり、競合調査とは「顧客視点での調査」です。顧客に見せている以上、それは公開情報であり、十分に調べられるのです。

どこまで広げるか──3段階のベンチマーク

では次に、競合のターゲットは、どこまで広げるべきでしょうか?

A社では、次の3段階で調査することにしました。


・地元の競合
・全国の大手
・EC専業企業

これまでA社は、地元の競合だけを見ていればよかったのです。しかし、Web受注が加速する時代には、これまで相手にしなくてよかった全国の大手も競合になります。大手はスケールメリットで安く提供でき、実際に地元へ進出してきた兆候も、すでに確認されていました。

さらに、最初からECを前提に幅広い商品を扱うEC専業企業も、今後は割って入ってきます。今は商品カテゴリが重ならなくても、先方が品揃えを広げれば、いずれ競合する。その未来は、容易に想像できます。しかも彼らはDXがかなり進んでいるため、ベンチマークとしても格好の対象です。

この3段階で比較することで、道筋が見えてきます。

短期では、地元の競合に負けないこと。中期では、全国の大手と対等に渡り合うこと。長期では、EC専業企業にもDXで劣らないこと。

段階的に捉えることで、中長期のロードマップが浮かび上がってくるのです。

調査はAIに、戦略は人間に

とはいえ、地元・全国・EC専業まで調べるのは、大変ではないか。そう思われた方も多いでしょう。

ここで、朗報があります。

これまでは、人間がわざわざインターネットで調べていました。相手はデジタルなのに、こちらはアナログな手作業で資料を作ってきたわけです。

しかし今は、生成AIがあります。生成AIを活用すれば、このハードルは一気に下がります。

ただし、ここで一つ、重要なポイントがあります。

競合調査を、一つの生成AIだけで完結させないことです。

なぜなら、単一のAIだけに任せると、ハルシネーション(もっともらしい嘘)があっても気づけないからです。

だからこそ、セカンドオピニオンです。

一人の医師の診断だけでは、誤診を見抜けません。だからこそ、別の医師にも診てもらう。それと同じように、複数の生成AIに同じ調査をさせ、その答え合わせをするのです。

出力が一致すれば、採用する。食い違えば、それぞれのAIに再調査させたうえで、人間の目でも確認する。真偽を確かめてから、情報として確定させていきます。

競合調査において、生成AIは実に頼りになります。競合が何社あろうと、一切疲れることなく調べ上げてくれます。しかも、比較表を美しく整え、総評コメントまできれいにまとめてくれます。

ここで問われるのは、もはや「調査力」ではありません。

複数のAIの出力を組み合わせ、ヌケモレなく、視座を高く保つ。つまり、トータルコーディネート力であり、プロンプト力です。

調査はAIが行い、人間は戦略を考える。

この役割分担が、明確になっていきます。優秀なアシスタントが調査を担ってくれれば、人間は戦略立案という付加価値の高い仕事に専念できます。結果として、戦略の質も精度も上がるのです。

これが、現代のDX戦略の進め方だと考えます。

想像を上回る競合の動き

「大号令が出ました」

A社は、その後、競合調査を進めました。

すると、想像以上に多くの競合が、すでにWeb受注をサービスとして展開していることが分かりました。

さらに現場の営業にヒアリングすると、生々しい声が次々に出てきます。すでに全国の大手とのコンペで敗れた事例。EC専業企業の見積もりを持ち込まれ、「この価格でできないか」と迫られた一件。

こうした現場の声が、社長の危機感を一気に高めていきました。

そして、今回のDX戦略の最優先事項として、Web受注を進めることが決まりました。社長トップダウンの、大号令です。

そこから逆算するように、基幹システムの整備、受注プロセスや業務フローの見直し、商品マスタの整理といった「社内DX」の優先順位も、次々に上がっていきました。それらをロードマップに整理し、必要な予算を弾き出す。

DX戦略が、一気に具体化したのです。

競合調査は、DX投資の優先順位を決める材料

DX戦略を進めると、必ず多くの課題が浮かび上がります。

しかし、それらをすべて同時に解決することはできません。人的リソースも、予算も、時間も、すべてが足りないからです。

だからこそ、DX戦略では優先順位をつけ、絞り込まなければなりません。

その優先順位を決める判断材料こそが、競合調査です。

競合調査は、単なる情報収集ではありません。DX投資の優先順位を決める、羅針盤なのです。

貴社は、競合調査をきちんと行ったうえで、競争力・顧客価値・事業モデルを変えるDX戦略を描けていますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。