2026
7/09
目 次
「行ってよかった」——でも、気がかりが1つ
「いろいろな情報が得られて、刺激にもなりました」
先日、ある情シス課長から、こんな感想をいただきました。
私が「DX展示会」に行ってみることを勧めたからです。
その課長が非常に多忙なことは、よく知っています。だからこそ、あえて私は、強く勧めました。展示会には、次のようなメリットがあるからです。
・自社の課題に対して、解決策の選択肢が増える
・他社の事例や導入パターンを、その場で確認できる
・展示会ならではの、偶然の発見がある
・DXトレンドの熱量と、市場の肌感覚が得られる
・日常業務から切り離され、戦略的な思考が促される
特に重要なのは、最後の点です。
たまには外に出て、気分転換をして、新しい世界に触れてほしい。そう思ったからです。
情シスがベンダーに振り回されず、ユーザーにも振り回されないためには、情シス自身が幅広い選択肢を持ち、提案力を高める必要があります。
だからこそ、情シスはわざわざ時間を割いてでも、足を運ぶべきなのです。
その課長は、忙しいスケジュールを何とか調整し、展示会に行ってくれました。反応は上々で「行ってよかった」とのこと。勧めた私も、嬉しくなりました。
ところが、その後に、気になることを言われます。
「ただ、そこで当社の経営幹部も見かけまして、少し気がかりで⋯」
どういうことか。
その経営幹部は、行動力があることで有名な方。しかも、権限もあります。気に入ったサービスを、勝手に「一本釣り」で導入してしまいそうで、不安なのだそうです。
なるほど。それは確かに困ります。
そこで課長は、次の経営会議で、あらかじめ牽制しておきたいと言います。
さて、どのように説明すればよいのでしょうか?
なぜ「一本釣り」は中小企業で起きるのか
実は、このようなケースは、中小企業では「あるある」です。一方で、大企業ではあまり起きません。
なぜでしょうか?
上場企業やその子会社は、J-SOX(内部統制報告制度)における「IT全般統制」の要件を満たす必要があります。そのため、「情報システム管理規程」の策定が必須となっています。
また、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やプライバシーマークを取得している企業も、監査に対応するため、規程を整備しています。
つまり大企業では、ベンダー選定のルールに則って進めることが、当たり前になっているのです。
一方、中小企業では、そもそも監査の義務がない場合が多い。そのため、明文化された規程やルールが存在しません。
なおかつ、中小企業は情シスのリソース不足も顕著です。忙しい情シスにわざわざ声をかけるより、黙って入れてしまった方が早い。そう思われてしまうのです。
しかし今後、DXを強力に推進していく企業となれば、話は変わってきます。
選定ルールがなければ、部分最適なシステムが一気に増えていきます。IT投資額も、予算を大幅に超過します。セキュリティリスクも、大幅に増加します。
その結果、あちこちで行き詰まり、事故が多発してしまうのです。
情シスが本当に守るべき「両立」
さて、話を戻しましょう。
一時の感情だけで、経営幹部がベンダーに言いくるめられ、サービスが導入されるのは困ります。
情シスの立場としては、きちんとした選定プロセスを踏みたい。RFIやRFPを活用し、競合ベンダーも比較調査した上で、客観的に決めるべきです。
ところが、ここに落とし穴があります。
RFIやRFPといった、情シス以外ではあまり馴染みのない言葉を振りかざし、厳しい選定ルールを宣言すると、どうなるでしょうか。
「なんだか面倒くさそうだ」
「情シスとは距離を置きたい」
「いっそ内緒で進めてしまおう」
こう思われてしまいます。そして、これはもっとまずい事態を招きます。何が起きるのでしょうか?
情シスの知らないところで、「シャドーIT」が、どんどん増えていくのです。
これこそ、最悪です。
つまり、情シスに求められるのは「両立」です。
経営幹部がDXをやりたいのなら、そのモチベーションの火は、決して消さない。しかし、情報だけは、情シスにきちんと集まるようにする。
この両方を、同時に成立させなければなりません。
ここで、情シスの立ち位置を、あらためて考えてみましょう。
やってしまいがちなのは、ユーザーを止める「関所」になること。
ルールを盾に通行手形を求め、条件が揃わなければ通さない。これでは、幹部の火は消え、シャドーITという「闇ルート」が生まれるだけです。
情シスがなるべきは「水先案内人」です。
目的地は、同じで構いません。ただ、その航路には浅瀬もあれば、暗礁もある。だからこそ、船を止めるのではなく、隣に乗り込んで、安全な航路へと導いていく。
これが、情シスのあるべき姿です。
DX戦略に「紐づけて」正当性を持たせる
幸い、この企業は、まさにこれからDX戦略の策定を進めようとしていました。
だからこそ、そこに紐づけて、正当性を持たせるのが得策です。
そこで、情シス課長には、経営会議で次のように説明してもらいました。
当社の課題や要件に合っているか。類似サービスとの比較結果はどうか。既に社内に存在しないか。既存システムとの連携は可能か。セキュリティリスクはないか。これらを勘案した上での、経営判断となります。
もし有効そうなサービスがありましたら、ぜひ情報システム課にご連絡ください。DX戦略の施策として、検討に含めさせていただきます。
経営幹部のやる気を削がないよう配慮しつつ、説明したそうです。
すると、その後を、社長がフォローしてくれました。
「何でもかんでも、お金を出せるわけじゃない。それにセキュリティは、我々は素人だ。きちんと情シスに話を通すように」
これで完璧です。
情シスに連絡さえ来れば、統制をきかせられます。情シス主導の「選定プロセス」に乗せることができます。
あわせて、取り急ぎ「システム導入・ベンダー選定ルール」を明文化することにしました。そして最終的には「情報システム管理規程」として、体系的なルールを整備していく予定も加えます。
熱量を消さなかったから、むしろ速く進んだ
「さっそく、その経営幹部から相談がありました」
後日、情シス課長がそう振り返りました。
その幹部は、DX展示会で知り合ったベンダーのサービスを、強烈に推してきたそうです。
そこで情シスは、そのサービスの競合をピックアップし、情シス主導でRFIを策定。情報収集を行います。
その結果、どうなったか。
そのサービス以外に、より自社にフィットし、なおかつ価格も安いサービスが、いくつも見つかったのです。
その幹部も「全然こっちの方がいいね!」と、情シスの進め方に納得した様子。今後は、情シスがRFPを作成し、選定を進めていくことになりました。
おそらく、情シスが見つけてきたサービスだったら、ここまでスピーディには展開しなかったはずです。
経営幹部が展示会で沸き起こったやる気の火を、情シスが消さなかった。むしろ後方から支援した。だからこそ、そのサービスは急速に、導入へと進んでいるのです。
情シスは、ユーザーを統制しないといけない側面があります。しかし、その制約と両立させながら、ユーザーに寄り添うべきです。
情シスに相談した方が、ユーザーは得をする。
これこそが、情シスの在り方ではないでしょうか。
貴社のIT部門・情報システム部門は、ユーザーのDXの熱量を消すのではなく、より大きくできていますでしょうか?
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情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平
情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。
システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。
近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。
膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。
主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。
著書の詳細は、こちらをご覧ください。