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IT予算は売上高の何%が正解なのか? 〜平均値に振り回されないために〜

2026

8/06

社長の素朴な質問

「IT予算は、一般的にどれぐらい確保するものですか?」

A社の社長が、ふと漏らした一言です。

DX戦略の策定も終盤に差し掛かっていました。Excelには、これまで検討してきた施策リストが、びっしりと並んでいます。

基幹システムの再構築、データ基盤の整備、営業のデジタル化、セキュリティの強化、AI活用の推進。

どれも必要なものばかりです。社長も情シス部長も、できることなら全部やりたい。その気持ちは痛いほど分かります。

しかし、全部は無理です。

人も、お金も、時間も足りません。とりわけ「予算」は、最も分かりやすく、最も動かしがたい制約となります。

だからこそ、施策に優先順位をつける。そして、会社としてどこまで投資できるのかを、経営戦略として見極める。この作業を避けて通ることはできません。

その議論の途中で、社長の頭にひとつの疑問が浮かんだのです。

そもそも、他社はどうしているんだろうか。

これは、DX戦略を策定する現場で、私が必ず受ける質問です。

一般的に、IT予算はいくら確保するべきなのでしょうか?

まずは、他社の数字を見てみる

他社の状況を知るには、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査」が参考になります。

企業IT動向調査報告書2026に掲載されている「業種グループ別 売上高に占めるIT予算比率」を見てみましょう。

一目で分かることがあります。

IT予算は、業種によって傾向がまったく違うということです。

突出して大きいのは「金融・保険」です。これは当然といえば当然で、システムそのものが事業基盤だからです。他業種が、この数値を予算の基準としてそのまま持ち込むべきではありません。

金融・保険を除くと、ざっくり売上高に対して0.9%〜1.9%あたりが「トリム平均値」となっています。トリム平均値とは、極端に高い値と低い値を除いて算出した、実態に近い平均値のことです。

ただし、注意点が2つあります。

ひとつは、この調査の対象が東証上場企業とそれに準じる企業を中心としていることです。中小企業にそのまま当てはめるものではありません。

もうひとつは、比較の前提です。IT予算に含める費用の範囲は、会社によってバラバラです。人件費を入れるのか、通信費はどうか、業務部門が独自に契約しているSaaSは誰の予算か。

ここを揃えないまま比べても、ただの錯覚が生まれるだけです。

売上100億円の会社で計算してみる

具体的に考えてみましょう。

売上高100億円の企業であれば、IT予算は1億円〜2億円が平均ということになります。

ここで、大抵の会社が同じ壁にぶつかります。

・基幹システムの運用・保守
・サーバー維持
・各種クラウド利用料、ライセンス費用
・PC、スマホの更新
・セキュリティ対策

これらを積み上げるだけで、すでにその金額に近づいてしまうのです。

つまり、平均並みの予算はあるのに、新しいことに使える余力がほとんど残っていない。

多くの企業が、いきなりここで躓きます。

「守りを削って攻めに回す」の落とし穴

では、その維持費を削って、攻めの原資にすればいい。

よくある議論です。

JUASの統計によれば、2025年度のIT予算の配分は、維持・運営が75.9%、新規施策・変革が24.1%となっています。

7割以上が維持費なのだから、この割合を減らして、攻めのDXに回せばいい。

もっともな考えだと思います。

しかし、ここにも落とし穴があります。

維持費は、すぐには大きく下がらない、ということです。

なぜでしょうか。

いま使っているシステムやインフラは、いまの事業を止めないための費用だからです。止めた瞬間に、業務が止まります。簡単に削れるものではありません。

現実的にできることは、次のようなものです。

・利用していないSaaS、アカウント、ライセンスの解約
・契約プランや保守レベルの適正化
・同じ機能を持つツールやサービスの重複整理
・サーバー、ストレージ、クラウド利用量の適正化

もちろん、どれも取り組む価値はあります。無駄な支出を放置していい理由はありません。

ただし、これらを必死に頑張っても、劇的な削減にはなかなか届きません。

さらに逆風もあります。

「円安」「人件費の高騰」「ベンダー提供価格の値上げ」です。JUASの調査でも、IT予算が増加した理由の2番目にこれらの影響が挙げられており、回答した企業は半数近くにのぼります。

つまり、削減努力の多くは、放っておけば膨らんでいく分の「相殺」に消えてしまうのです。

削減の努力は必要です。

しかし「守りを削ってDXの原資を捻出してから取り組む」という順序を選んだ会社に、その機会は永遠に訪れません。

必要な金額を決めているのは何か

では、必要な投資額は何で決まるのでしょうか。

前提として、IT予算には「波」があります。

新しい仕組みを導入しようとすれば、大きな「初期費用」が発生するからです。

基幹システムを再構築するだけで、数億円規模になることも珍しくありません。それだけで、毎年のIT予算を軽々と上回ります。

他にも、新しいプロジェクトを立ち上げれば、開発費用、コンサル費用、ベンダーの伴走費用が発生します。新旧システムが並行稼働する期間は、費用が一時的に二重にもなります。

重要なのは、その波の高さが、何によって決まるかです。

たとえば、5年前に基幹システムを刷新し、データやIT基盤の整備も進めてきた企業と、20年前のシステムを多数のアドオンで延命し続けてきた企業とでは、変革に必要な金額が数倍違っても不思議ではありません。
 

つまり、これまで「先送り」してきた課題への対応費が含まれるのです。
 

過去に十分な投資をしてこなかった企業ほど、そのツケを変革期にまとめて負担することになります。結果として、業界平均を大きく上回るのです。

必要な投資額は、目指す姿と現在地とのギャップによって決まります。

変革期のIT投資額は、他社との絶対額の比較ではありません。自社がどこからどこへ、どの速さで変わろうとしているかという「相対的な問題」なのです。

平均値は、誰の目標でもない

そもそも、平均を目標に置くこと自体に無理があります。

JUASの調査で、DXを「推進できている」と答えた企業は33.7%にとどまります。しかもこれは、調査開始以来の過去最高の数字です。

つまり、平均1.5%前後という数値は、推進している3分の1と、していない3分の2を混ぜた合成値なのです。

これから変革に踏み出そうという企業が、目標として置くべき水準ではないのです。

そして、無理に平均に収めようとすると、はっきり弊害が出ます。

施策が小さくなりすぎる。基盤整備は先送りになる。改革ではなく、小さな改善に終始する。

そして、目に見える成果は出ないまま、となります。

ただし、平均値に意味がないわけではありません。

自社の投資水準が、外部から見て著しく不自然ではないか。平均との差を、自社固有の事情できちんと説明できるか。

その点検のための「物差し」としては、間違いなく有効です。

目標として使うか。物差しとして使うのか。この違いは決定的です。

3つの投資シナリオで、経営判断に持ち込む

その上で、変革期にどれだけ投資するかは、最終的に経営判断となります。

単純に優先順位の高い施策の費用を積み上げるのではなく、経営が「どう変わるか」を選ぶ。そういう議論に進むべきです。

DX戦略では、7年程度の長期を見据えます。そこから逆算して、中期3年間の投資シナリオを3つに分けて考えてみましょう。

① 最小投資(毎年、平均並み)
・法令対応、セキュリティ、老朽化対応を優先
・現状維持。DX戦略の多くは先送り

② 重点投資(平均の1.5倍〜2倍)
・経営効果の高い3〜5施策に集中
・業務変革と顧客価値向上を段階的に実現

③ 加速投資(平均の2倍超)
・基盤整備とDX施策を並行実施
・変革スピードは速いが、投資・実行リスクも大きい

それぞれについて、ロードマップを可視化します。必要なIT予算、体制、時間軸を並べて見比べていくのです。

すると、議論の順番が入れ替わります。

「IT予算を売上の何%にするか」は、出発点ではありません。

「どの変革スピードを選ぶか」という経営判断が先にあり、それが具体的なロードマップになっていく。直近のIT予算は、そこから逆算された結果にすぎないのです。

下された経営判断

「腹をくくってやる」

社長は、力強く宣言されました。

基本は②の重点投資。そこに、緊急性の高い施策をいくつか上乗せする方向性が示されました。

ざっと概算を見積もると、かなりの金額になります。変革期として、3年間のIT予算は例年をはるかに上回る水準となりました。

これで、DX戦略における大きなポイントを、ひとつ通過したことになります。

しかし、気を抜くにはまだ早い。

この後には、人材と実行体制という問題が待っています。

こちらも相当に手強い相手です。予算がついても、動かす人がいなければロードマップは絵に描いた餅で終わります。そこを具体化して、実現性を高めるところまでがセットです。

平均超えが許される条件

大きなIT予算の決断には、緊張感が走ります。

誤解のないように申し添えますが、私は安易に「平均を超えろ」と推奨しているのではありません。

投資すれば成功するわけではないからです。

しかし、投資しなければ確実に成功しません。

・そのDX戦略が、掲げたビジョンにどれだけ近づけるのか。

・売上、利益、生産性、顧客価値、リスク低減といった経営効果を、投資に見合う形で説明できるのか。

・実現可能なロードマップが描けているのか。

それが示せてこそ、平均超えは許されるのだと考えます。

逆にいえば、この3つを説明できないまま「他社もこれぐらいですから」と平均値を持ち出すのは、判断の放棄といえます。

経営判断すべきは、平均値との比較ではありません。

未来シナリオの選択です。

貴社のIT予算は、「平均」ではなく「ロードマップ」から逆算されていますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。