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「簡単だからシステム化は不要」── 費用対効果だけでシステム化を決めていませんか?

2026

6/25

「簡単だから大丈夫」という現場の声

「簡単な作業なので、特にシステム化しなくて大丈夫です」
「そこまで時間がかからないので、困っていません」

現場ヒアリングをしていると、よく言われる台詞です。

そして、決まって不機嫌な表情とセットです(苦笑)。

さらに追い打ちをかけるように、こう続きます。

「システム化したところで、効果はたかが知れていますよ」
「もっと効果の高い作業を優先した方がいいんじゃないですか?」

たしかに、システム化の王道は「効率化」や「省力化」です。

システム化することで「月に○○時間削減」という数字が出ます。これが効果であり、削減時間が大きいほど、費用対効果が高いと言えます。

そのため、削減時間の大きな作業がシステム化の対象となります。逆に、削減時間の小さな作業は、対象外となっていきます。

システム導入の現場では、非常に「あるある」な光景です。

では、こうした「ちょっとした作業」「数分で終わる作業」は、本当に対象外でよいのでしょうか?

どんな作業も、慣れれば「簡単」になる

「簡単なので、システム化するほどじゃないですよ」

ここで考えたいのは、その「簡単」とは、いったい誰にとっての簡単なのか、ということです。

簡単かどうかは、その作業をやっている本人の感覚にすぎません。

どんなに難しい作業でも、慣れればスピードが上がり、簡単になっていきます。本人の中で定型化され、こなれていき、品質も上がります。繰り返し経験を積み上げ、「熟練」したからです。

極論すれば、どんな難しい作業も、最後は慣れて「簡単」になるのです。

普通の人が1時間以上かかる作業でも、そのベテランなら10分もかかりません。実際にかかっている時間を調査してみると、想像以上に短いのです。

これは、名人芸と同じです。

熟練した職人の手さばきは、あまりに滑らかで、見ているこちらには「簡単そう」に映ります。しかし、それを真似できる人は誰もいません。長年の鍛錬があるからこそ、簡単に「見える」だけなのです。

費用対効果、つまり「効率化」や「省力化」だけを物差しにすると、こうした作業は確かに導入する意味が薄くなります。

ある意味、人による「効率性を極めた状態」とも言えます。

本当の問題は「効率」ではなく「属人化」

しかし、問題はそこではありません。それ以上に大きな問題が潜んでいます。

「属人化」です。

その人がいないと業務が回らない。その人がいる前提で、業務が設計されている。この仕組みこそが問題なのです。

では、この前提が崩れたら、どうなるのでしょうか?

その人が体調不良で数週間不在になれば、業務が突然止まります。退職にでもなれば、ブラックボックスのまま立ち行かなくなります。

簡単そうに見えるだけで、他の人は誰もできないのです。

これは、一本柱で支えている家のようなものです。

普段は何の問題もなく、しっかり建っています。しかし、その柱が一本抜けた瞬間、家全体が傾きます。支えがそこにしかないからです。

「業務継続性」の観点で見れば、これは極めて大きなリスクです。費用対効果の数字には、決して表れないリスクなのです。

属人化は、無条件に「悪」ではない

ただし、誤解のないように申し上げます。属人化は、無条件に悪いものではありません。

ゼロから事業を立ち上げたり、業務フローを構築したりする段階では、最初は試行錯誤です。手探りでさまざまな課題を解決する過程で、最適な方法が見つかります。

回数を重ねることで、その人にとってのやり方が確立されていきます。

属人化とは、ある意味で究極の効率性の形でもあります。

中小企業など、組織が小さいうちは、属人化はある程度やむを得ません。数名しかいないチームであれば、各人が必ず属人化タスクを抱えているはずです。「ひとり情シス」や「ひとり経理」などは、その典型でしょう。

問題は、その先です。

時間が経つごとに、属人化した業務は増えていきます。業務量が増え、役割が広がれば、属人化タスクもどんどん積み上がっていきます。

企業として、特定の人に依存した仕組みが大きくなるほど、リスクは高まります。

だからこその「仕組み化」です。

そのベテランの属人化した業務をシステムに置き換え、人への依存を減らしていく。これは、立派な経営リスクへの対応なのです。

ここで、整理しておきたいことがあります。

業務改善のためのシステム導入には、目的が2つあります。

「省力化」と「属人化解消」です。

仮に省力化に寄与しなくても、それだけで対象外とはなりません。むしろ、リスクの高い属人化が解消できるのであれば、それは有力な導入候補なのです。

ベテランがシステム化を嫌がる、本当の理由

ただし、進め方には配慮が必要です。

なぜ、そのベテランはシステム化を嫌がるのでしょうか?

それは、その熟練した作業が「誇り」だからです。

難しい作業ほど、苦労や失敗を重ねながら、ようやく正しい方法を編み出してきました。業務フローに深く組み込まれた重要な作業ほど、その人のアイデンティティそのものです。

自分がそこにいる意味があり、重要な存在だと感じられる。その拠り所を、奪われようとしているのです。

明日には、自分の仕事がなくなるかもしれない。これまでの努力が無かったことにされ、自分の存在が否定され、居場所がなくなるかもしれない。そんな不安も相まって、システム化に協力したくない。むしろ、反対するのです。

だからこそ、システム化された後の話を、セットでしなければなりません。

今後の新たな仕事、新たなプロセスの開拓を示し、会社として、より重要な役回りを期待していると伝えるのです。そのために、今の作業を手放してもらう。「心理的安全」を確約したうえで、次に進んでもらうのです。

会社としての背景と今後の方針を説明する。これは、その部門の部門長が責任をもって担うべき役割です。

その言葉は、誇りと責任の「証明」である

「月に数回しか発生しません」
「1件あたり数分なので、大したことありません」
「絶対に自分がやった方が早いので、意味がないです」
「これまでトラブルは起きていないし、現場はこれに慣れています」
「このやり方が一番確実です」
「Excelで十分です」

システム化を進めようとして、現場からこう言われたら腹が立ってしまうかもしれません。

しかし、これらの台詞は、これまで誇りと責任をもって作業を愚直に遂行してきた、何よりの証明です。

だからこそ、まずは丁重に受け止めましょう。そのうえで、未来に向けて、ともに変革していくのです。

その作業が簡単かどうかは、論点ではありません。

現場の手作業をデジタルで仕組み化し、人への依存を減らしていく。これこそが「現場DX」です。

なお、「何でもかんでもRPAで自動化すればよい」という単純な話ではありません。安易にロボットを増やしすぎると、今度はそこが新たなブラックボックスとなり、別のリスクを生みます。

「どう実装するか」という論点はあります。ただ、このコラムが終わらなくなってしまうので、別の機会に掘り下げたいと思います。

貴社は、費用対効果だけでシステム化を決めていませんでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。