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なぜ情シス課長は、たった一人で経営幹部へのヒアリングに臨むのか?

2026

7/02

弱気な情シス課長

「自分には無理ですよ」

ある情シス課長が、弱気な表情でつぶやきました。

A社は製造業で、情シス課は正社員3名、派遣1名という体制です。

今回、A社では史上初の「DX戦略」を策定することになりました。実は、この会社には中期経営計画のような経営戦略すら存在しません。「戦略」と呼べるものを本格的に策定するのは、これが初めてとのことでした。

それだけに、情シス課長の不安は大きいようです。

まずは現状把握の一環として、経営幹部10名に対してヒアリングの予定です。営業、生産、業務、経理、人事、総務などの主要部門。それぞれの部門トップに、各領域の経営課題を1人ずつヒアリングしていきます。

本来は、社長も同席した上で、経営目線で各領域の課題や今後の展望について意見交換をしたいところです。

ところが、社長があまりに多忙でした。向こう2ヶ月は予定がびっしり埋まっています。経営幹部もそれぞれ忙しい身です。社長と各幹部の都合をすべて合わせようとすると、全部終わるのに3ヶ月以上はかかってしまいます。

そこで、ヒアリングは情シス課長が代行し、結果を後日まとめて社長に報告する、という進め方に切り替えることにしました。

すると、情シス課長が急に弱気になったのです。

「私は総務部配下の一課長にすぎません。取締役や部長に、サシでヒアリングを申し込むのはちょっと・・・釣り合いません。役不足です」

「私の前では、本音で話してくれないと思います。やはり社長のスケジュールに合わせた方が・・・」

実は、DX戦略策定を初めて行う場合、このような状況は「あるある」です。

果たして、どう進めればよいのでしょうか?

情シスにとって「またとないチャンス」

ちなみに、ヒアリングのトップバッターは社長でした。

その際は私も同席し、情シス課長と一緒にヒアリングを行いました。私が準備したヒアリング項目を順番に質問し、記録していく進め方です。

そのため、情シス課長からは「同じやり方で、各ヒアリングにも同席してほしい」とお願いされました。

しかし、あえてお断りさせていただきました。

なぜなら、これは情シスにとって「チャンス」だからです。

下剋上というと言い過ぎですが、情シスが大きくなり、経営の中枢に入り込むビッグチャンスなのです。

DX戦略を実行していくためには、情シスの力が不可欠です。今のように運用・保守だけをやっていては、とても乗り切れません。

これからの情シスは、プロジェクトの「プロ」になる必要があります。

「プロジェクト管理」と「ファシリテーション」という2大ノウハウを溜め込み、貢献していくことが前提条件なのです。

DXは、現場の合意形成、経営と現場の橋渡し、さらには自社とベンダーの相互翻訳など、情シス抜きには進められません。

ここで情シスが各プロジェクトで存在感を発揮すれば、その地位は自然と向上し、増員の正当性も生まれてきます。やがて情シスは「課」から「部」へと昇格し、さらに幅広い役割と責任を担うようになっていきます。

そのための「楔」を打ち込むのが、情シス課長のミッションです。ここは、絶対に逃げてはいけません。

ヘルプデスクで磨かれた「対人スキル」

私が同席を断ったのには、もう一つ理由があります。うまくいくイメージがあったからです。

ここで、ヒアリングの適性について考えてみましょう。

情シス課長は、情シス現場の叩き上げです。過去には長い間、ヘルプデスクや現場の問い合わせ対応で苦労を重ねてきました。

これこそが、立派なノウハウなのです。

ヘルプデスクは、対人スキルが磨かれる「道場」です。人に頼られるスキル、話しかけられやすい雰囲気、相談に乗りたいと思わせる人柄。それらはすべて、情シスの現場で鍛えられます。

であれば、その対人スキルを、今度は経営幹部に発揮すればいいだけです。

経営幹部から経営課題について相談される。そんなポジションを確立すればいいのです。何か現場で課題が発生したとき、真っ先に情シス課長の顔が浮かぶ。そのように、意図的に仕向けていくのです。

ここで変に私が同席すると、どうなるでしょうか。

経営幹部にとって私は外部から来たお客様ですから、気を使って、私の方に向かって話しかけてしまうでしょう。

それでは、台無しです。情シス課長が前面に立たなければ、まったく意味がありません。

ヒアリングは設計し、準備するもの

「でも、何を聞けばよいのか分かりません」

情シス課長の不安は、さらに高まっていきます。

しかし私は「問題ありません」と即答しました。

ヒアリングシートは、事前に準備すればいいからです。基本的には、社長ヒアリングで用いた項目と同じものです。

適切な質問さえ用意しておけば、経営幹部には必ず刺さります。自分が管轄する領域が良くなる(楽になる)のであれば、自ら話したくなるものです。

今回、質問は30項目用意しました。これは10名全員に共通の質問です。内容は「①デジタイゼーション」「②デジタライゼーション」「③デジタルトランスフォーメーション」というDXの3ステップで分類しています。

たとえば、①デジタイゼーションでは「ペーパーレスは十分ですか?」という質問があります。すると、各部から必ずいろいろと問題が出てきます。経理だけの問題ではありません。営業にも現場にも工場にも従来の紙が残っています。そこから非効率な手続きへと話(悩み)が勝手に進んでいきます。

ペーパーレスはコロナ禍で進んだとはいえ、完全にペーパーレス化した上で「業務フローの合理化」をできた現場は、意外と少ないのです。

②デジタライゼーションでは「データ活用は十分ですか?」という質問があります。これも「そもそもデータが見れない」「データ連携が行われていない」「データ集計が手作業で属人化している」など課題が山積みです。そして、10部署あれば、10通りのデータ活用アイデアが出てきます。

そして、③デジタルトランスフォーメーションでは「現在の事業に、AIをどう活用できますか?」と聞いてみます。すると、非常に面白い意見が次々と出てきます。必ず話し手も聞き手もワクワクしていく時間となります。

このように、DXの3ステップに分け、30の質問を次々に投げかけていきます。

ポイントは「どんなシステムを入れたいか?」ではなく「どんな課題を解決したいか?」「どうありたいか?」を探っていくこと。システムは手段にすぎません。まずは事業や業務の未来像(To-Be)を確認することで、逆算して手段が自然と定まっていきます。

質問さえしっかりしていれば、あとは「傾聴」するだけです。

そうなれば、情シス課長の人当たりの良さ、聞き上手なところ、話しやすさ、誠実で真面目な雰囲気は、すべて武器になります。

キックオフで、経営幹部の協力姿勢を引き出す

ヒアリングに向けて、経営幹部の協力姿勢を引き出すための手も打ちました。

「DX戦略策定キックオフ」の開催です。

ヒアリング対象となる経営幹部10名を招集しました。まず社長から意気込みを述べてもらい、DXの必要性を訴えてもらいます。

その後、私からDX戦略についての講義パートを1時間確保してもらいました。DXの他社事例、DX戦略の考え方や進め方、その要諦などを説明していきます。途中途中でディスカッションを挟み、発言を促したところ、経営幹部の反応は上々でした。

各部門の課題意識や変革アイデアなど、DXでやりたいことがたくさんあるようです。

その流れの最後に、社長から「今後、情シス課長がヒアリングをするから、協力するように」と指示が出ます。

これで、準備は整いました。

堂々と、大きく見えた情シス課長

「たくさんの意見が聞けて、面白かったです」

情シス課長が、そう振り返りました。

情シス課長は、たった一人で経営幹部10名へのヒアリングをやり遂げました。予定は各1時間でしたが、ほとんどは予定をオーバーするほど盛り上がったとのことです。

そのヒアリング結果を、社長に報告する日が来ました。私も同席します。

結果は、想像以上でした。社長も気づいていなかった課題や、DXのアイデアが、たくさん得られたのです。

社長は、配布した資料を興味津々で眺めています。「面白いね!」と、その表情も明るい。

今回の特徴は、営業・マーケティング領域の課題やアイデアが、たくさん出てきたことでした。さすが経営幹部の皆さんです。対外的な視野が広く、顧客やサービスへの意識も高い。ホームページの改善、SNSの使い所、デジタルコンテンツの構想など、多様なアイデアが飛び出しました。

生成AIを使いこなせていない現状への危機感も、多く語られたようです。さらには、新たな事業アイデアもいくつか出てきました。

その説明をする情シス課長の口調は、次第に熱を帯びていきます。何だか、楽しそうでした。

そう、楽しいのです。

次のステージへ

「戦略作り」とは、明るい未来を具体的に考えることであり、本当に面白いものです。テーマが大きいぶん、やりがいもあります。真の経営課題や、本当に経営に効くアイデアが、次から次へと出てくる。

情シスの現場も確かに面白いのですが、DX戦略は、その面白さがスケールアップします。経営課題はスコープが全社に及び、大きな変革を目指していく。会社が様変わりし、成長していくイメージが湧いてくる。そこには、ワクワクする世界が広がっているのです。

プレイングマネージャーとして、いろいろな現場タスクを掛け持ちしている場合ではありません。DX戦略を手がけている今、求められる役割は大きく変わってきています。

DX戦略の実行に向けて、これからは情シスの戦力を整備し、増強していくステージに入ります。その中心となるのが、情シス課長の存在です。

ここで経営層に向けて幅広く立ち回り、存在感を強めれば、情シス拡大を他の経営幹部も後押ししてくれるはずです。最初に打ち込んだ楔が、やがて「課」から「部」への扉をこじ開けていくのです。

この日の情シス課長は、堂々としていて、大きく見えました。今後、もっと頼もしくなるに違いありません。

貴社のIT部門・情報システム部門は、DX戦略の最初の検討フェーズから食い込めていますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。