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情シス責任者がIT戦略をつくる時はいつも孤独との戦い

2022

10/18

IT戦略はいつも丸投げされる

「IT戦略が重すぎます。助けてください」

その会社では、3年に1度の「IT戦略」を策定する時期がやってきました。

情シス部長は、つかれた表情で愚痴をこぼします。

多くの現場を見てきましたが、IT戦略は通常はCIOやIT部門・情シスの部長がつくります。

しかし、そこまで情シスの規模が大きくない会社なら、課長クラスや担当者がつくるケースも見てきました。その場合は、現場の対応と掛け持ちしながら非常に苦労されています。

そこでいつもビックリするのは、このIT戦略が「丸投げ」されてくること。

確かに経営戦略では、断片的にIT戦略について触れています。

近年はDXブームなので、どの会社の経営戦略を見ても「DX」の文字は躍っています。DXに会社の運命がかかっていると書かれてあります。

しかし、キーワードだけで抽象的すぎます。

「方針は示した。あとはITの専門家の方でよろしく頼む」

と投げられています。

重すぎる責任。割の合わない大変さ。

これは、やった人にしかわかりません。

IT戦略をつくる情シス責任者は、戦略づくりとどう向き合っていけばよいのでしょうか?

IT戦略策定という苦行と孤独

IT戦略は、非常に広範囲かつ難しい問題と向き合わないといけません。

① 現行システムすべてを把握する大変さ

現行システムの全体を可視化し、客観的に検討しないといけません。現行システムの課題を熟知し、どこに対策(改修・再構築)を練らないといけないかを挙げていきます。リスクを勘案して、優先順位をつけていきますが、数が多いため、全体を把握するのにかなりの時間を要します。

② システム化されていない領域は計画難易度が高い

現状、システム化されていない領域もシステム化を考えないといけません。今までは実現困難だったとしても、最新のアーキテクチャならシステム化できるかもしれません。しかし、このような領域は前例がほとんどないため、確証が得られません。手探りの中、実験的にアジャイル開発していく必要があります。しかし、その計画の難易度が高いのです。

③ 正解のないロードマップに線を引かないといけない

システム化の青写真がみえてきたら、それを中長期のスケジュールに落とし込んでいきます。スケジュールに正解はありません。今までの経験と自社の状況からざっくりと線を引いていくしかありません。正解がない中で、描いていくことに大きなストレスがあります。

④ 投資計画が最大の苦行、数字に発狂する

策定したロードマップに対して、必要な投資、費用を算出していきます。ここも「超概算」です。まずキャッシュアウトベースで各年度を積み上げ、次にPLベースで投資金額を5年に按分していきます。数字は後で独り歩きするため、非常に恐怖です。間違いが合ったら厳しい指摘を受けるので、何度も何度も計算をやりなおします。エクセルは計算式だらけで、どこを修正したらどこが変わるのか混乱を極めます。数字との戦いは、ストレスの極みです。

⑤ 体制を組みたいがスキルもない、人手も不足

ロードマップを実行するために体制図をつくります。しかし、残念ながら人手もスキルも足りません。天を仰ぎます。採用には時間もかかります。短期間でやろうとすると、外部から人材を補充となりますが、費用がさらに積み上がります。果たして、ここまで膨張した予算が許されるのだろうか。一人で悶え苦しみます。

このように、情シス責任者の悩みは尽きません。

IT戦略を考えれば考えるほど、いつまでもエンドレスで完成しないとさえ思えてきます。

戦略づくりに専念できればいいですが、他の仕事も山積みです。集中して考えるのは、朝早くか夜遅くに限られます。

気づくと、戦略策定の締め切りがすぐそこに迫っています。

「通常の仕事のように分担できたらどんなに楽だろう」

しかし、この仕事は他に振ることができません。振れる人がいないからです。

自分で考えるしかありません。

自分が持っている全ての知力を総動員して、酸欠になるほど深く潜らないといけません。何度も資料を作り直す様は、昨日の自分と戦うようなものです。

物理的には大勢に囲まれているのに、深い孤独を感じます。

苦行と孤独の先にあるもの

一方で、見方を変えると、会社の「コア」を作ることが許された唯一の人間だとも言えます。

IT戦略は、いわば会社全体の未来をデザインすることに等しい。

これだけでも大変やりがいがあります。

おそらく、描いたとおりにロードマップは進まないでしょう。

アクシデントも多く発生し、変更を余儀なくされることもあります。

しかし、戦略を描いた人だけが、当初計画とのギャップを腹落ちさせることができ、自らの血肉となります。

3年後に振り返った時に、計画とは少し違う形になっているかもしれません。しかし、今では考えられないほど高いところまで登っているはずです。

自分が描いたロードマップに対して、会社全体をあげて大勢の人が走り、目に見えて形ができ上がっていく様は、なんとも言えない陶酔感もあります。

この達成感を味わえるのは、会社で一人だけです。

ぜひ孤独を味わい、道なき道を進み、未来を切り拓いていってほしいと思います。

そう考えると、戦略策定の重荷も「悪くない」と思うのは私だけでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。