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DX認定は取るべきか?「ウチに何のメリットがある?」と言った社長が即決した理由

2026

10/01

社長に一蹴されたDX認定

「DX認定をうまく説明する方法を教えてください」

支援先の情シスメンバー、Kさんからの相談です。

Kさんは社長に、DX認定の取得を説明しに行ったそうです。ところが、社長はまったく相手にしてくれません。

「ウチに何のメリットがあるのか?」

さらに、こう聞かれたそうです。

「競合のA社とB社は取っているのか?」
「いえ、取っていません」
「そうだろ?」

話は、そこで終わってしまいました。

本当は、その後にこう続けたかったそうです。

「競合他社が取っていないので、チャンスです!」

しかし、その場の雰囲気に圧倒されて、言えなかったとのこと。

他の事業部長も、冷ややかな目で見ています。後方支援もしてくれません。

確かに、メリットがなければ経営者は動きません。

DX認定のメリットは、どう説明すればいいのでしょうか?

そもそも、DX認定は取得すべきなのでしょうか?

DX認定は「スタートライン」の認定

DX認定とは、経済産業省が所管する国の認定制度です。「デジタルガバナンス・コード」に基づき、DX推進の準備が整った企業を認定します。

<制度の要点>
・業種、業態、企業規模を問わず申請でき、中小企業も対象
・IPAが審査し、経済産業省が認定
・認定されると、IPAの認定事業者一覧で公表
・認定企業は、DX認定ロゴを使用可能
・申請料、認定料、維持費はすべて無料
・有効期間は2年間で、継続には更新申請が必要

DX認定は「DXで成果を出した企業」の認定ではありません。

「DXのスタートラインに立った企業」の認定です。

ビジョンや戦略、推進体制が整っているか。いわば「DX-Ready」の状態を認める制度なのです。

DXを進めている企業であれば申請は簡単

国の認定と聞くと、手続きが大変そうに感じるかもしれません。

しかし、想像されるほどではありません。むしろDXを推進している企業なら、拍子抜けするでしょう。実際、弊社も難なく取得できました。

一般的な企業であれば、1カ月以内に申請まで進めると思います。

<申請までの目安>
・社内調整:数日〜2週間
・DX推進ページの作成:数日〜1週間
・申請手続き:数日〜1週間

社内調整の中でも、時間がかかりやすいのが「社長メッセージ」です。DX認定では、経営者によるDX推進方針の対外発信が求められており、申請前にDX推進ページなどで公開しておく必要があるからです。

なお、既にDX戦略や方針、経営者メッセージを公表している企業なら、新たにDX推進ページを作る必要はありません。申請準備は数日程度で済む場合もあります。

その後、審査の標準処理期間は60営業日。おおむね3〜4カ月で認定に至ります。

DX認定のメリットとは?

では、あらためて考えてみましょう。

DX認定を取得すると、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

正直に言えば、そのメリットは派手ではありません。

売上が増える。コストが下がる。そうした直接的な効果を約束するものではないからです。

とはいえ、メリットがないわけではありません。

一つ目は、顧客からの信頼です。

ホームページでDX認定の取得を公表すれば、「この会社はDXに取り組んでいる」という客観的なアピールになります。企業としての信頼性向上につながる可能性はあるでしょう。

ただ、率直に申し上げると、DX認定のロゴを見ただけで顧客の行動が大きく変わるほどのインパクトがあるとは思えません。

二つ目は、採用へのアピールです。

実際に、採用ページでDX認定の取得を打ち出している企業もあります。

「デジタル活用に前向きな会社である」「新しいことに取り組んでいる会社である」と伝える材料にはなります。特に若い世代には、こうしたメッセージが響く可能性もあるでしょう。

一方で、その効果を正確に測ることは難しいと思います。DX認定を取得したからといって、それだけで応募者が急増するわけでもないでしょう。

三つ目は、融資や補助金です。

一部の融資制度や補助金では、DX認定企業に対する優遇措置や加点制度があります。これらを利用する企業にとっては、明確なメリットになります。

もちろん、そうした制度を利用する予定がなければ、直接的な恩恵はありません。

なお、かつては税制優遇もメリットの一つでしたが、DX投資促進税制は2025年3月末で廃止されています。

そして、もう一つ。DX認定のメリットとして、よく目にする説明があります。

「申請プロセスそのものが、DX戦略や推進体制を見直す機会になる」

確かに、そのような企業もあるでしょう。

ただ、私が見ている現場では、必ずしもそうとは限りません。

実際には、情シスやDX推進部門が必要な情報を集め、経営者に確認を取りながら、実務的に申請を進めている企業も多くあります。

そもそも私は、DX認定を取得するためだけに、何カ月も経営会議を重ねる必要はないと考えています。

DX戦略そのものは、DX認定とは別の場で徹底的に議論すべきだからです。

既にDX戦略や方針が整理されている企業にとって、DX認定の申請は、それらを申請項目に沿って整理していく作業に近いものです。

DX認定がなければ、企業として絶対にまずい。

そういう性質のものでもありません。

こうして一つずつ見ていくと、どれも一定のメリットはあります。しかし、「これを取れば会社が大きく変わる」と言えるほど決定的なものでもありません。

経営者への訴求材料としては、少し物足りない。

冒頭の社長が、なかなか首を縦に振らなかったのも無理はないのです。

社長が即決した理由

「御社の取引先が取得しているか、調べてみてください」

私は、Kさんにそうお伝えしました。

Kさんが調べてみると、何と売上1位と2位の取引先が取得していました。さらに、5位と7位の企業も取っています。

Kさんは、興奮しながら私に教えてくれました。

Kさんは、取引先上位20社の取得状況を資料にまとめます。そして、社長へ再び説明に上がりました。

これが決め手となります。

「早急に取るように」

社長から、あっさりと号令が下りました。冷ややかだった事業部長たちも、態度がころっと変わります。

その後、この企業はわずか1週間で申請までたどり着きました。最難関のDX推進ページに掲載する「社長メッセージ」が、すぐに承認されたからです。

社長は、DX認定そのものに価値を感じたわけではないかもしれません。しかし、自社を取り巻く環境が変わっていることは、伝わったのだと思います。

最初に問われたのは「競合」でした。

しかし、答えは「顧客」にありました。

自社のお客様が、何を重視し始めているのか。経営者にとっては、競合の動向よりもそちらの方が重要だったのです。

DX認定を経営者に説明するなら、並べるべきは「制度のメリット」ではありません。

探すべきは「自社にとっての意味」です。

悩むぐらいなら取る

では、企業はDX認定を取得すべきなのでしょうか?

売上が上がるわけではない。コストも下がらない。取ったからといって、DXの成果が直接出るわけでもない。

競合他社が取っていないからといって、DX認定だけで差別化できるわけでもありません。

それでも・・・

採用が少しでも良くなるなら、ないよりあった方がいい。

主要顧客が次々と取得しているなら、自社も取得を検討する十分な理由になる。

「我が社はDXに取り組んでいる」という、社員へのメッセージにもなる。

社員のデジタルへの意識が少しでも高まるなら、あってもいい。

一つひとつのメリットは、確かに小さいものです。しかし、申請費用はゼロ。すでにDXを進めている企業なら、準備の負担も大きくありません。

申請内容に不備があっても、修正して何度でも再申請できます。取り組めば、よほどのことがない限り取得まで至るでしょう。

小さなコストで、複数の可能性を持てる。

つまり「コスパ」がよいのです。

であれば、取った方が合理的だと私は考えます。悩むぐらいなら取る。それぐらいのフットワークの軽さで、いいのではないでしょうか。

申請費用ゼロのDX認定を、取るかどうか。

その小さな意思決定に、何カ月もかかる企業があります。そのような企業が、大きなDX投資や業務変革をスピーディーに決断できるとは、私には思えません。

貴社は、すでにDX認定を取得していますでしょうか?

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DXで経営戦略を仕組み化する技術

情シスコンサルティング株式会社
田村 昇平

情報システム部門(情シス)を起点に、経営戦略とDXを統合するコンサルタント。

システム開発を10年、ユーザー側のITプロジェクト支援を13年。ベンダーとユーザー、双方の立場を経て独立。これまで30社以上、100を超えるプロジェクトに携わる。

近年は、現場主導のDXが行き詰まる企業が多い現実を踏まえ、「経営主導」への転換を提唱。トップダウンでDX戦略を策定し、実行可能な形で「仕組み化」する支援を行っている。併せて、「情シスをDX推進の中核組織」へと進化させる独自メソッドも確立してきた。

膨大な現場経験での数多くの失敗や板挟みとなる葛藤。それらを乗り越えてきた知見をもとに、机上論ではない「再現性のあるDX」を追求する実務家として、経営者・CIO・情シス部長と伴走している。

主な著書に『システム発注から導入までを成功させる90の鉄則』『御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか』『DXで経営戦略を仕組み化する技術』がある。

著書の詳細は、こちらをご覧ください。